最新記事

医療

コロナワクチン成功で脚光浴びるmRNA がんや難病へ応用期待で資金と人材が流入

2021年3月19日(金)18時20分

メッセンジャーRNA(mRNA)を利用したCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)ワクチンが成功を収めたことで、この斬新な技術を、他のワクチンだけでなく、嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)やがん、その他の難病の治療に利用する道が開けてきた。写真はモデルナ製のコロナワクチン、2月に米コネティカット州で撮影(2021年 ロイター/Mike Segar)

メッセンジャーRNA(mRNA)を利用したCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)ワクチンが成功を収めたことで、この斬新な技術を、他のワクチンだけでなく、嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)やがん、その他の難病の治療に利用する道が開けてきた。

科学者らによれば、mRNAを使えば、従来の薬剤では到達不可能だった疾病を標的にできる可能性があるという。

mRNAの分野におけるトップクラスの専門家8人にインタビューしたところ、モデルナとファイザー/ビオンテックによるmRNAワクチン及び遺伝子ベースの製造プロセスが米国で緊急承認を得たことは、食品医薬品局が、過去に実績のない技術の幅広い利用に前向きであることを示しているという。

こうして高まる期待を背景に、mRNA技術に力を注ぐ企業には何十億ドル(数千億円)規模の資金が流れ込んでいる。ここ2―3カ月だけでも、数億ドル規模だ。またFDAのお墨付きを得たことで、科学分野におけるトップレベルの人材もこの分野に集まりつつあると専門家は言う。

「使える技術であることが証明されただけに、mRNAはこれまで以上の注目、関心を集めている」と話すのは、コンサルタント企業プライスウォーターハウスクーパーズで米国製薬・生命科学部門を率いるグレン・ハンツィンガー氏。

ボストン・コンサルティング・グループでCOVID-19問題対応チームの共同リーダーを務めるジョシュ・ケラー氏は、監督当局がワクチンを承認したことで、mRNAを利用した他の治療法についても「プロセスが加速され」、壊れやすいmRNA成分を製造・流通過程で維持することは可能であるという実践的な証拠が積み上がっていると話す。

mRNA技術は、コンピューターのオペレーティングシステム(OS)にたとえられることがしばしばある。mRNAは人体に特定のタンパク質を生成するよう命令する天然の化学メッセンジャーだが、製薬会社は、製造したmRNAに新たな遺伝子コードを挿入することにより、ターゲットを変更することができる。

ワクチンに関してmRNA技術が優れている点は、タンパク質を生産・精製してワクチンを生み出すために長い準備期間を必要とする標準的技術に比べて、汎用性と開発スピードが高いことだ。

治験に到達した治療法

2020年、新型コロナウイルスによるパンデミックを契機とした緊急のニーズを背景に、mRNA技術を利用したワクチン・治療薬の開発に従事する企業に投資が集まった。インドに本社を置く調査会社ルーツ・アナリシスによれば、その金額は2019年の5億9600万ドル(約643億円)に対し、52億ドル以上という。

ここ3カ月に限っても、mRNA技術に注力する企業の中で、キュアバックNVが5億1800万ドル、アークトゥルス・セラプーティクス・ホールディングが1億5000万ドルをそれぞれ調達し、ジリード・サイエンシズは、やはりmRNA技術を扱うグリットストーン・オンコロジーと、HIV治療ワクチンに関する最大7億8500万ドル規模の契約を結んだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁「世界の不確実性高まる」、物価安定に強力

ワールド

トランプ氏、7月7日にネタニヤフ首相と会談 ホワイ

ワールド

トランプ氏、日本に貿易巡る書簡送付へ 「コメ不足な

ビジネス

米グーグル、MIT発の核融合ベンチャーと電力購入契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中