最新記事

科学後退国ニッポン

日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)

DOCTORS IN ROUNDTABLE SESSION

2020年10月16日(金)17時40分
ニューズウィーク日本版編集部

ILLUSTRATION BY A-DIGIT/ISTOCK

<日本で科学の危機が叫ばれて久しいが、海外経験豊富な研究者たちはどう捉えているのか。4人の日本人科学者に集まってもらい、「選択と集中」など日本の科学界の問題点、欧米との絶望的な格差、あるべき研究費の使い方について語ってもらった。本誌「科学後退国ニッポン」特集より>

日本は「科学後進国」なのか。日本の研究・教育環境と海外との違い、そこから見える問題点と解決策とは。

アメリカやイギリスの一流大学や研究所で勤務経験があり、現在は東京大学や東京工業大学で助教、准教授として働く30代後半の研究者、仮名「ダーウィン」「ニュートン」「エジソン」と、国内の大学で学長経験もある大御所研究者「ガリレオ」の計4人に、覆面座談会で忌憚なく語ってもらった。
20201020issue_cover200.jpg
(収録は9月25日、構成は本誌編集部。本記事は「科学後退国ニッポン」特集掲載の座談会記事の拡大版・前編です)

◇ ◇ ◇

日本は「科学後進国」か否か

ダーウィン 僕の専門分野である情報学の一分野では、そもそも先進国であったことすらないですね。

ニュートン 私の所属する化学の領域ではまだ日本はトップグループをなんとか維持しているけど、中国などに猛烈に追い上げられている状態。

エジソン 「後進国」かどうかは分からないが、材料科学分野でも右肩下がり。若い人がポスドク(博士号取得後の研究員)に残らないことが最大の問題。昔は自由度が高くて先生たちが好きなことをやっていて、若い人にいいなと思わせるものがあったが......。

ガリレオ 昔は昼休みにテニスなんかやってね。給料は安いかもしれないけど先生稼業っていいなと思われていた。今はとにかく(大学法人化後の過大な事務負担で)忙し過ぎる。研究の余裕もない。

例えばノーベル物理学賞を受賞した赤﨑勇・名城大学終身教授のような青色発光ダイオード(LED)の研究はアメリカでは絶対できないと羨ましがられた。当初、(発光に必要な)窒化ガリウムの論文の数は地をはうような少なさだったのに、海のものとも山のものともつかない物質を信じてやる赤﨑先生のような人がいて、そこに国がちゃんと金を出した。それが日本のいいところだった。

ニュートン 官僚を目指していた頃に科学政策について勉強したけど、昔の一番いいところは、要はバラマキがあった。額は大きくはないが均等分配。物になるかは分からない研究にも税金が使われ、研究者は長い目で研究ができた。その成果がノーベル賞につながっているという歴史があるでも目先の成果主義が始まり、答えが見つかりそうなものにしかお金を出さないようになった。

「自分を雇えない」博士

ガリレオ アメリカでも昔は結構成果主義的なところがあった。それでもまき餌のように少額のお金をばらまいてあまり目先の成果を問わないという政策を始めてからうまくいった。

それに欧米では先生も必死に企業から金を取ってくる一方、企業も比較的基礎研究に近いところに金を出す文化がある。企業と大学のやるべきところの境目がはっきりしている。自分たちのできない基礎的なところに金を出します、という文化が海外企業にはあると思う。

エジソン OBや会社から大学へ大きな寄付が落ちてきて、先生たちに分配しますよね。研究費に関して日本と全く違うのが、基本的に半分くらい人件費であること。日本の場合、人を雇うことが前提となっていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中