最新記事

中国共産党

中国による科学者スカウト、豪報告書が暴いた知的財産入手のからくり

China’s Wooing of Foreign Scientists

2020年9月7日(月)18時05分
アビジュナン・レジ(ディプロマット誌安全保障・防衛担当)

科学者スカウト制度「千人計画」はスパイ行為と同義? TINGSHU WANG-REUTERS

<技術分野の覇権を目指す中国が世界に張り巡らす人材採用拠点は、少なくとも600カ所。札束をはたいて「透明性に欠け、不正行為や知的財産盗用、スパイ行為と広く結び付く」取り組みを推進している>

国外に置く「人材採用」機関を利用して、中国が不透明な手段でテクノロジーへのアクセスを獲得している──。

シンクタンクのオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が8月20日、「フェニックス狩り」と題する報告書を発表した。技術分野の覇権を目指す中国は「使える」人材を特定・スカウトするため、世界各地に少なくとも600の拠点を構えているという。

中国が、国外在住の自国民や中国系市民を主な対象とする人材採用制度「千人計画」を始動したのは2008年のこと。以来、科学者計1万人以上が破格の好条件で中国に招致されていると、元CIA局員のウィリアム・ハンナスは指摘している。

ASPIの報告書によると、人材採用拠点が擁する権限は「千人計画」より幅広く、人材採用事業は「透明性に欠け、不正行為や知的財産盗用、スパイ行為と広く結び付く」取り組みを促進していると断言する。

人材採用拠点は「契約事業者の外国組織や外国人」から成るものの、多くは中央統一戦線工作部(中央統戦部)の傘下組織の監督下にあるとも、報告書は指摘する。中央統戦部は、中国の影響力拡大や政治的利益の保護を任務とする党中央委員会直属の組織だ。

物理学者の謎めいた死

中国にとってさらに都合の悪いことに、報告書は国外の人材採用拠点について「特定の技術へのアクセスを有する個人をターゲットにせよ、との指示を受けている可能性がある」と述べている。

それはつまり、経済スパイ行為では? まさにそのとおりだ。「人材採用拠点が経済スパイ容疑に関係した事例は少なくとも2件ある」という。

ASPIの報告書は、中国共産党が世界各地で科学者や技術者の育成・採用に関与しているとの疑いが高まるタイミングで発表された。

今年1月、ハーバード大学のチャールズ・リーバー化学・化学生物学部長が米司法当局に逮捕・起訴されたとのニュースは、科学界に衝撃を与えた。リーバーは「千人計画」に参加し、報酬を受け取っていた事実について虚偽の陳述をしたという。

2018年12月には、スタンフォード大学物理学教授で、ベンチャー起業家の張首晟(チャン・ショウチャン)が急死した。中国出身で米国籍の張は中国共産党の関連機関と深いビジネス関係にあり、死亡したのは、米通商代表部(USTR)のロバート・ライトハイザー代表が中国の違法な商業行為について報告した数日後。自殺とされる死の詳しい状況は今も謎のままだ。

【関連記事】中国企業は全て共産党のスパイ? 大人気TikTokの不幸なジレンマ
【関連記事】AI監視国家・中国の語られざる側面:いつから、何の目的で?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー経済に回復の兆し、来年度3%成長へ 世銀

ワールド

ハマス武装解除よりガザ統治優先すべき、停戦巡りトル

ビジネス

米ロビンフッド、インドネシアに参入 証券会社と仮想

ワールド

イタリア、25年成長率予想を0.5%に下方修正 2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中