コラム

中国企業は全て共産党のスパイ? 大人気TikTokの不幸なジレンマ

2020年08月21日(金)16時40分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

TikTok's Dilemma / (c)2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<創業者が本土の保守派から「売国奴」呼ばわりされるTikTok。国内からは「両面性」を非難され、アメリカからの信頼も得られないという始末>

トランプ米大統領は8月6日、中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)や華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)に続き、大人気のTikTok(ティックトック)やWeChatの運営会社との取引を禁止する大統領令を出した。その前日にはマイク・ポンペオ国務長官が、アメリカの通信ネットワークから中国の影響力を排除する「クリーンネットワーク」という構想を発表している。

中国の企業は全て共産党のスパイ? それは考え過ぎだろう。WeChat を運営する騰訊(テンセント)の創業者・馬化騰(マー・ホアトン)は財界人として最近、名誉的に地位を与えられた共産党員でしかない。TikTokの創業者・張一鳴(チャン・イーミン)も、中国の保守派から「売国奴」と罵られるほどアメリカを賛美する男だ。1970~80年代生まれの彼らは父母の世代と違い、共産主義者ではなく金儲け主義者。政治より利益が最優先で、WeChatには中国国内向け「微信」と国外向けWeChatが、TikTokも国外専用のTikTokと中国本土専用の「抖音(ドウイン)」がある。中国本土の厳しいネット検閲を避け、海外で利益を上げるためだ。

ただし、中国IT企業のこのような「両面性」は中国国内から非難されている。そして、中国企業の本質が変わらない限り、アメリカからも信頼は得られない。最も根本的な問題は共産党の指導に基づく「中国の特色ある社会主義」体制だろう。中国憲法は「社会主義制度を破壊する全ての組織と個人を禁止する」と強調。全ての中国企業が官民問わず党組織を設立し、党の活動を展開することも定められている。テンセントやTikTokを運営するバイトダンスにも、もちろん党委員会がある。

「星星之火、可以燎原」(小さな火花も広野を焼き尽くす)という毛沢東の言葉のように、至る所に存在する共産党組織は70年前、国民党に勝った「秘密兵器」。現在の中国は9000万人以上の共産党員がいる「党国」だ。「中国の特色ある共産主義」の火花はいつかネットを焼き尽くすこともできる。

国外でも中国でも儲けたい。だが、中国の体制が変わらない限り努力しても世界の信頼は得られず、国内の非難も止まらない......。中国企業の不幸な「左右為難(ジレンマ)」だ。

【ポイント】
馬化騰 1971年海南島生まれ。深圳大学コンピューター学部を卒業後、1998年にテンセントを創業。全国人民代表大会の人民代表も務める。英語名はポニー・マ―。

張一鳴 1983年福建省生まれ。天津の南開大学を2005年に卒業。12年にバイトダンス創業。2016年に抖音を始め、2017年に米アプリ「ミュージカリー」を買収しTikTokと統合した。

<本誌2020年8月25日号掲載>

【関連記事】トランプTikTok禁止令とTikTokの正体
【関連記事】「習主席はマフィアのボス、共産党は政治的ゾンビ」 習近平批判の著名人、相次いで処分

【話題の記事】
中国は「第三次大戦を準備している」
ヌード写真にドキュメントされた現代中国の価値観
アメリカ猛攻──ファーウェイ排除は成功するか?
中国でホッキョクグマ並みの巨大ブタが飼養されるようになった

20200825issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年8月25日号(8月18日発売)は「コロナストレス 長期化への処方箋」特集。仕事・育児・学習・睡眠......。コロナ禍の長期化で拡大するメンタルヘルス危機。世界と日本の処方箋は? 日本独自のコロナ鬱も取り上げる。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

三井住友FG、欧州で5500億円融資ファンド 米ベ

ワールド

シリア外相・国防相がプーチン氏と会談、国防や経済協

ビジネス

円安進行、何人かの委員が「物価上振れにつながりやす

ワールド

ロシア・ガスプロム、26年の中核利益は7%増の38
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story