コラム

ヌード写真にドキュメントされた現代中国の価値観

2019年07月17日(水)11時50分

From Luo Yang @luoyangggg

<世界的に名が知られるようになってきた中国の写真家、ルオ・ヤン。彼女の代表作「Girls」の被写体は、反体制的でも社会のはみ出し者でもないが、典型的な中国人でもない>

時代と場所――この2つの要素はしばしば、才能のある写真家をさらに大きく飛躍させる。現在の中国は、現代写真という意味において、この地球上でそれを実現し続けている数少ない空間の1つだ。さまざまな政治・社会的激動と、それが生み出す新たな価値観、あるいは葛藤の中で、優れた写真家が現れ続けている。

今回取り上げるのはその1人、中国東北地方(旧満州)、遼寧省の瀋陽に生まれ、現在は北京と上海をベースに活動するルオ・ヤン、35歳である。彼女のビジュアル・バックグラウンドはグラッフィクデザインだが、写真に対する興味と自身の才能に気付いて転向。ここ数年はEU諸国で個展を開き、アメリカでも著名な雑誌に作品が取り上げられるなど、その名が世界的に知られてきている。

中国の今を切り取るポートレート写真家、と言ってもいい。代表作は「Girls」だ。被写体の女性たち(ときに男性も含まれる)は、ヤン自身が述べているように、典型的な中国人ではない。かといって、別に尖った人々、反体制的であったり、あるいは社会のはみ出し者やパンクな人々というわけでもない。

安定よりも自由と夢を求め、自分が選んだ道で自信と自立心を持ちながら生きている人々だ。それが、彼女がここ10年ほどかけて本格的に追い続けている被写体である。

多くの写真がヌード、あるいはセミヌードである。ただし典型的な男性的価値観がしばしば望むだろうタイプの、しとやかなエロスや、逆にセックスアピールを強く押し出したエロスでは全くない。

また、このブログで過去に紹介した故レン・ハンに見られる、ブラックユーモア的でキッチュなヌードでもない(「世界が共感するヌード写真家レン・ハン、突然の死を悼む」参照)。ヤンの作品は、セクシュアリティは維持しながらも、ストレートであるかゲイやLGTBであるかとは関係なく、ジェンダーを超えた、静かな自尊心と威厳に満ちている。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独仏両国、次世代戦闘機の共同開発中止に向けて協議=

ワールド

トランプ氏、マクドナルドのイベントで演説 インフレ

ワールド

英、難民政策を厳格化 反移民感情の高まり受け制度悪

ワールド

元FBI長官起訴で不正行為 連邦地裁が記録の提出命
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story