幕が下りたら、ゴミになる。舞台芸術が抱える「大量廃棄」という闇

2026年3月16日(月)14時00分
柾木博行(本誌記者)

古材を舞台美術に使った『エミリア・ガロッティ/折薔薇』(トランスレーション・マターズ、美術・衣裳=大島広子)

<トラックから投げ捨てられる舞台セット。日本の舞台芸術に、持続可能な未来はあるのか?>

SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が社会に浸透して久しい今、あらゆる産業で環境への配慮や資源の有効活用が求められている。しかし、華やかで非日常的な世界を創造する「舞台芸術」の分野ではどうだろうか。実は、舞台の裏側では、公演が終わるたびに大量の大道具などが廃棄されるという構造的な課題を抱えている。

廃棄の「痛み」と「社会との乖離」が活動の原点

一般社団法人イマジネーション・グリーンの大島広子代表理事は、舞台美術家として長年活動してきたなかで、この業界特有の構造的な課題を痛感してきた。

大島は、自らがサステナブルな舞台制作に取り組もうとしたきっかけについて、二つの側面から述べている。一つは、舞台美術家としての原体験だ。

「舞台美術家として15年この業界にいて、公演の度に作ったものを捨てないといけないという痛みを感じています。私自身、自分が作った大道具を産廃処理施設に持っていって、トラックの上から投げ捨てたこともあります。1週間前まで舞台で輝いていた大道具を捨てるというのは、仕方がないけれど切ない。それがずっと自分の中に残っていました」

もう一つのきっかけは、舞台芸術界と一般社会の間に存在する「乖離」への気づきだったという。

「コロナ禍のある日、電車に乗ったらSDGsトレインというラッピング電車だったんですね。それに乗って『これからの社会はこうなるんだ』と思ったんですが、電車に乗って行った先の劇場では、全くそういう社会課題についての会話が交わされてなくて、自分が働いている舞台業界は一般社会の取り組みとかけ離れているのかな?という疑問が浮かびました」

イマジネーション・グリーンが目指す「持続可能な仕組み」

イマジネーション・グリーン代表理事の大島広子

イマジネーション・グリーン代表理事の大島広子

こうした経験を元に大島らが立ち上げたイマジネーション・グリーンは、「芸術に携わる全ての人びとが環境に配慮した芸術活動に取り組み、芸術の力を持続可能な環境や社会につなげる仕組みを作る」という。この活動は、まず舞台芸術から始め、将来的には文化芸術全体に広げていくことを目標としている。

主な活動方針は以下の3つに基づいている。

1. 持続可能な芸術・文化活動の促進:環境に配慮した制作のための仕組みづくりや状況のリサーチを行い、より良い制作環境のための政策提言などを行う。その中心となるのが、世界的な舞台芸術のサステナビリティ指針「シアター・グリーン・ブック」の日本での展開。
2. ネットワークづくり:舞台芸術の関係者はもちろん、業界や立場を超えた交流を促進し、ハブ(拠点)となる役割を担う。
3. 環境リテラシー・トレーニング:環境に関する知識や、「シアター・グリーン・ブック」の内容を伝える学習の場を提供し、劇場や芸術系大学などでレクチャーも行う。

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