またしても、トランプ米政権絡みのインサイダー取引が疑われている。
4月7日、トランプ大統領がイランとの一時停戦を発表する直前のこと。オンライン上で将来の出来事について賭ける予測市場の1つである「ポリマーケット」に50以上もの新しいアカウントが出現し、7日の停戦成立に賭けた。そして、トランプの停戦発表により数百万ドルを荒稼ぎすると、それらのアカウントは姿を消した。
アメリカ国民はこの新しい疑惑に1日か2日は関心を示したが、すぐに興味を失ってしまった。
トランプが「非凡」なのは、言語道断な行動をひっきりなしに行い、アメリカ社会における「当たり前」の感覚を変えてしまったことにある。その結果、それまでの政治指導者であれば政治生命がついえていたような行動を繰り返しても、大きなダメージを被っていない。
問題は、政権を覆う腐敗だけではない。スキャンダルと混乱が際限なく続くことにより、社会で許される行動に関する規範が不可逆的に変質し、アメリカの民主政治の土台がむしばまれつつある。
繰り返されるスキャンダルが「異常」を「日常」に変える
トランプ政権下では、相次ぐ疑惑が人々の感覚を鈍らせてきた。3月23日には、トランプがイランの発電所への攻撃を中止すると発表したわずか15分前に、原油と株の先物市場の取引が異常に増加していた。インサイダー取引が強く疑われる動きだ。
3月には、米証券取引委員会(SEC)の執行部門トップだったマーガレット・ライアンがトランプ周辺の疑惑調査を政権上層部に阻まれた末、辞任した。トランプの息子や娘婿たちは、中東や防衛関連の取引で数十億ドルの利益を得ている。
汚職監視団体トランスペアレンシー・インターナショナルが発表している「汚職腐敗度指数(CPI)」によれば、最新のアメリカのランキングは29位。10年前の18位から大きく順位を落としている。
数々のスキャンダルは、アメリカの政治文化を劣化させつつある。世界で最も発達した民主的な市民社会と政府を持つはずのアメリカで、トランプがここまで責任を問われずにきたのは、社会的・法的規範に対する度重なる攻撃を目の当たりにして、国民の感覚が麻痺したからだ。
社会心理学の研究によると、社会規範に反する行動が取られると、最初のうち人々は否定的な反応を強く示す。しかし、そうした逸脱的な行動が繰り返されると、以前であればあるまじき振る舞いと見なされていた行動に慣れてしまう。
それでも残るトランプ「拒否」の意思──アメリカはまだ踏みとどまれるか
そうなると、世論や捜査機関は違反者の責任を追及することが難しくなる。というより、責任を追及しようとすらしなくなる。違反が当たり前になり、責任が問われない状況が続けば、次第に怒りは弱まり、諦めと無関心が広がり始める。そして人々の思考が内向きになり、社会の問題より、もっぱら自分の私的な問題に関心を向けるようになる。政治家の汚職を摘発することは不可能だという認識が定着してしまう。
救いは、アメリカの社会が──少なくとも現時点では──まだ完全に諦めの感情に覆い尽くされてはいないことだ。最近の世論調査によれば、有権者の3分の2はトランプを支持していない。世論調査を見る限り、このままいけば11月の中間選挙ではトランプの共和党が大敗するかもしれない。
思い出すのは、私が仕事の世界に入って間もなく、上司に呼び出されたときのことだ。経費精算で2ドルの新聞代を4ドルに水増し申請したと疑われたのだ。私は「高級紙」の領収書を示して疑いを晴らせたのだが、その時代とは比較にならないくらい、アメリカ社会は堕落してしまった。
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【note限定公開記事】アメリカ社会は堕落...国民を「腐敗慣れ」させたトランプ大統領の罪
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