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マクロスコープ:自民の一部に「高市総裁」期待の声、政府内は政策懸念も

2025年08月19日(火)14時16分

臨時総裁選の要否を判断する自民党内の手続きが進む中、石破茂首相(党総裁)の退陣を求める党内の一部に高市早苗前経済安全保障担当相(写真)の新総裁就任を期待する声が広がっている。2024年9月、都内で代表撮影(2025年 ロイター)

Yoshifumi Takemoto Tamiyuki Kihara

[東京 19日 ロイター] - 臨時総裁選の要否を判断する自民党内の手続きが進む中、石破茂首相(党総裁)の退陣を求める党内の一部に高市早苗前経済安全保障担当相の新総裁就任を期待する声が広がっている。7月の参院選で大きく得票を減らしたことから、保守色が強い高市氏で「岩盤支持層」を取り戻そうと考えているからだ。ただ、消費減税など高市氏の政策は石破政権と相いれない部分があり、政府内には懸念の声もある。

自民は19日、党総裁選管理委員会を開いた。委員長の逢沢一郎衆院議員は記者団に、党則に基づき党所属の国会議員295人と都道府県代表47人に臨時総裁選の要否について意見を聴く考えを改めて示した。過半数の172人が要求すれば、臨時総裁選を実施することになる。今後、意見聴取の回答期限などについても協議する方針だ。

<「もう高市さんしかいない」>

臨時総裁選が実施された場合、有力候補の一人と目されるのが高市氏だ。ある参院議員はロイターの取材に、「石破首相が退陣する流れは出来上がっている」とした上で、全国の党員票を含めて判断する「フルスペック」の総裁選が必要だと強調。「次の総裁はもう高市さんしかいない」と述べた。別の参院議員も「保守票を取り戻せる人を首相にしなければだめだ」と語った。参院選で多くの票が参政党に流れてしまったとの危機感が背景にある。

実際、高市氏の人気は高い。昨年9月の総裁選では決選投票で石破氏に敗れたものの、1回目の投票では全国の党員・党友票を基にした「総党員算定票」でトップだった。中国地方で市議会議員を務めるある党員は、「いまだに総裁選の結果に納得していない党員はたくさんいる」と明かす。

<消費減税主張に懸念の声も>

ただ、高市氏が掲げる政策に対しては政府内から懸念の声も聞かれる。

「食料品にかかっている8%の消費税を0%に引き下げることがいま必要なのではないか」「決算剰余金や外為特会の利息収入を財源に充てる方法もある」。高市氏は6月14日、自身のユーチューブチャンネルでこう述べた。「日本の財政状況は決してそんなに深刻に悪いものではない。よくするために賢く投資をする」とも語った。

石破政権は消費減税を、社会保障の安定財源確保の観点から否定してきた。現下の財政状況についても、金利上昇に伴う利払費の増加や慢性的な人口減少で経済成長が楽観できないなどの課題が指摘される中、財政健全化を重視し、基礎的財政収支(PB)の早期黒字化を目指すのが基本スタンスでもある。

こうした方針と異なるようにも映る高市氏の主張に、財務省幹部は「(高市氏が首相になれば)積極財政を推し進めて、我々の考えに耳は貸さないだろう」と警戒。政務三役を務める自民議員の一人は「物価高是正のためには円安阻止が大切だ。日本国債の格下げを阻止できるかどうかが重要になる。高市氏ではだめだ」と話した。

<専門家はプラスとマイナス指摘>

専門家は現状をどう見ているのか。野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト・木内登英氏は、現時点では臨時総裁選の実施は確定していないと前置きした上で、「金融市場の見方としては、石破氏は政治的にはリベラルで、経済政策では財政規律を重視する方向なので、首相が代われば、経済政策の流れが変わり、積極財政により、債券市場には悪材料、株式市場には短期的に前向きに受け止められる可能性がある」とみる。

一方で、「財政規律が緩み、消費減税の議論が高まれば国債の金利に影響する可能性がある。その先に日本国債の格下げ観測もくすぶる」とも指摘。「悪い金利上昇は経済にマイナスなので、積極財政は短期的に株式市場にプラス効果があっても、円安による物価上昇が積極財政のプラスを打ち消す可能性もある」と話す。

(竹本能文、鬼原民幸 編集:橋本浩)

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