最新記事

健康

痩せていても「隠れ肥満」の人はどんなリスクがあるか

Beware of Skinny Fat

2018年8月8日(水)17時16分
カシュミラ・ガンダー

見た目はスリムでも本当に健康かどうかは分からない STEVE NIEDORF PHOTOGRAPHY-STONE/GETTY IMAGES

<体重やBMI値が正常値でも体脂肪は多い人がいる。最近の研究で分かった「痩せ型肥満」の健康リスクとは>

肥満の人は、心臓疾患や2型糖尿病など多くの病気にかかりやすい。それは誰でも知っている。しかし、スリムな体形なら慢性疾患の心配がないというわけではない。最近の研究で、「隠れ肥満(痩せ型肥満)」にも普通の肥満と同じような問題が起こり得ることが分かってきた。

痩せてさえいれば健康だという誤解は、スリムであることを健康より重視する風潮のせいもある。生理学的な理想の体形を計測する方法について、混乱があるためでもある。

アメリカの場合、身長と体重から計算するボディー・マス・インデックス(BMI)が30以上なら肥満という明確な定義はあるが、隠れ肥満の定義は知られていない。「隠れ肥満とは、BMIは正常値なのに体脂肪がかなり多い人のこと」と、ジョンズ・ホプキンズ大学医学大学院のエバ・ツェン助教は言う。

はっきり分かっているのは、隠れ肥満の健康リスクが深刻だということだ。医学誌のクリニカル・インターベンションズ・イン・エイジングに発表された研究によれば、筋肉量が少なく、体脂肪の多い人には脳の健康に二重の危険がある。

まず、隠れ肥満は作業記憶や精神的柔軟性、方向感覚や自制心の低下につながる。アルツハイマー病の症状と同じだ。

脂肪の合計量より、脂肪の分布と筋肉量が重要であることも分かってきた。内臓異所性脂肪は心臓や肝臓、膵臓など生命の維持に必要不可欠な臓器を包んでしまうので、2型糖尿病や癌、冠動脈心疾患の一因になると、英ウェストミンスター大学のジミー・ベル教授は指摘する。骨格筋量の減少は認知力の低下にも関連があると考えられている。

腹部に脂肪が蓄積している人は、BMI値がほぼ同じで腹部脂肪蓄積が少ない人に比べ、それほど年を取らないうちに心臓血管疾患や糖尿病にかかったり、死亡したりするリスクが高いと、バーミンガム大学応用医療研究所のニール・トーマス教授は言う。「座って仕事をする時間が長く、高カロリーで塩分の多い食品を食べ、アルコールを飲み過ぎる現代のライフスタイルが隠れ肥満の原因だ」

BMI値を過信するな

もう1つの問題は、生理学的健康を計測する手段としてBMIに頼り過ぎていることだ。BMIは一般集団の健康を測るには便利だが、年齢や性別、民族、筋肉量などの要因を考慮して調整することができない。

筋肉質の肉体を持つボディービルダーは健康でも、BMI値では肥満ということになりかねない。高齢者と若者を比較すると、BMIは同じでも高齢者のほうが脂肪が多い傾向がある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

スウェーデン中銀、政策金利据え置き 「今後も維持」

ビジネス

スイス中銀、0.25%利下げ 世界経済とインフレの

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き トランプ関税の影響見極

ビジネス

米との貿易戦争、ユーロ圏のインフレ率上昇し成長は減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 6
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 7
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 8
    ローマ人は「鉛汚染」でIQを低下させてしまった...考…
  • 9
    医師の常識──風邪は薬で治らない? 咳を和らげるスー…
  • 10
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】
  • 4
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 10
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中