最新記事
電力問題

電力危機の救世主は「廃水池」だった...「浮くソーラーパネル」の「一石何鳥」もの効果とは?

From Waste to Power

2024年12月6日(金)13時21分
フェース・ジェレマイア(ニュージーランド・リンカーン大学講師)
ローズデール方式

ローズデール方式なら新たな用地を確保しなくても太陽光発電ができる  LYNN GRIEVESON/GETTY IMAGES

<電力危機にあるニュージーランドで、廃水安定化池を活用した発電に新しい活路を見いだした>

ニュージーランドの電力危機を解決する秘策は廃水安定化池にある──そう言われてもピンとこないだろうが、フル活用されていない水面を発電に生かせば、電力価格の高騰と有害藻類の大発生という2つの問題を同時に解決できそうだ。

廃水池にソーラーパネルを浮かべれば、さまざまな効果がある。再生可能エネルギーを生む上、池の水質も改善され、廃水処理コストを削減できる。

ニュージーランドでは初の試みとして2020年に、最大都市オークランド郊外のローズデール廃水処理施設がこの方式を採用。新たな用地を確保しなくても電力供給を倍増させられる可能性を示した。この試みは、将来的に貯水池やダムに同様の方式を広げるためのテストケースとなっている。

【関連動画】ローズデール廃水処理施設の「浮くソーラーパネル」 を見る


ローズデールでは廃水池の水面のうち1ヘクタールに2700個のパネルと4000台のフロートを設置。システム容量は1040キロワットで年間の発電量は最大1486ギガワット時。年間145トンの二酸化炭素(CO2)の排出を削減できる上、バイオガスの熱電供給と合わせて処理施設の電力消費の25%を賄え、電気料金を年間約260万ドル節約できる。

ニュージーランドでは、これは「浮くソーラーパネル」利用の初の試みであるだけでなく、初の大型の太陽光発電プロジェクトでもある。電力価格の高騰と気候変動への対応が急務とされる今、求められているのは、まさにこうした既存の資源を利用した革新的な解決策だ。

周回遅れからトップへ

ニュージーランドは水力発電に大きく依存していて、特に冬場にダムの水位が下がると頻繁に電力不足になる。さらに今は天然ガスの供給不足も電力価格を押し上げている。

そんななか、フル活用されていない資源の1つが廃水安定化池だ。ニュージーランドには200余りの廃水池がある。この方式は単純で処理コストも低いため、今でも広く利用されている。

だが廃水池の広い水面には日光が降り注ぎ、栄養分も豊富なため有害藻類が発生しやすい。日射量が多く、水温が高い時期は藻類が大発生し、対策に多大なコストがかかる。

水面にソーラーパネルを浮かべれば、日射が遮られ、水温の上昇も抑えられる。それにより藻類の繁殖を防げるばかりか、廃水の蒸発も防げる。蒸発防止は効果的な廃水処理の維持には非常に重要だ。

大型の太陽光発電はこの5年ほどで大幅にコストが下がり、今では最も安い電源として注目されている。ただし今までニュージーランドでは、導入があまり進まなかった。

導入が遅れたのは、太陽光発電は気温が高く日射量が多い地域に適しているという誤解があったからだ。ソーラーパネルは太陽のエネルギーを取り込む装置で、気温は関係ない。比較的涼しいニュージーランドにとって太陽光発電はうってつけだ。

1人当たりの電力消費量ではOECD(経済協力開発機構)30カ国中、13位のニュージーランド。廃水池を利用した太陽光発電はエネルギーと環境という2つの課題への取り組みを、この国が世界に示すモデルケースとなるだろう。


The Conversation

Faith Jeremiah, Lecturer in Business Management (Entrepreneurship and Innovation), Lincoln University, New Zealand

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


食と健康
消費者も販売員も健康に...「安全で美味しい」冷凍食品を届け続けて半世紀、その歩みと「オンリーワンの強み」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:日米為替声明、「高市トレード」で思惑 円

ワールド

タイ次期財務相、通貨高抑制で中銀と協力 資本の動き

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中