最新記事
環境問題

プラスチックごみが「海洋生物の胚」を死滅させている可能性

Sea Plastics Are Causing Embryos to 'Go Wrong' and Die

2024年4月23日(火)13時30分
パンドラ・デワン
(写真はイメージです)Naja Bertolt Jensen-Unsplash

(写真はイメージです)Naja Bertolt Jensen-Unsplash

<イタリアのアントン・ドールン生態学研究所とイギリスのエクセター大学が行った新たな研究で明らかに>

プラスチック汚染は海洋生物に想像以上の害をもたらしているのかもしれない。

国際自然保護連合(IUCN)によると、海に流れ込むプラスチックは年間1400万トンに上り、海洋ごみ全体の80%を占める。そうしたプラスチックは海洋生物が絡まるだけでなく、人工物に含まれる化学物質を摂取すれば、自然の代謝がかき乱される可能性もある。プラスチックの表面には重金属などの有害物質が付着していることがあり、これがそうした影響を引き起こす。

イタリアのアントン・ドールン生態学研究所とイギリスのエクセター大学が行った新たな研究で、高濃度のプラスチック汚染が、実際に広範な海洋生物の胚を死滅させている可能性があることが分かった。

「極端な汚染がある中でそうした種が繁殖していれば、その種に次の世代はない」。発表の中で、論文筆頭筆者のエクセター大学アソシエートリサーチフェロー、エヴァ・ヒメネスグリはそう言い切った。

科学誌キモスフィアに発表した研究でヒメネスグリのチームは、主な海洋生物を網羅する7種の発達にPVCペレット(幅広い製品の製造に使われる粒状のプラスチック)が及ぼす影響を調査した。

「我々が調査した種は、高濃度の新しいPVCペレットにさらされると、さまざまな形でおかしくなった。殻や脊索(胚の中央を走る棒状の組織)を作れなくなったり、正しい左右相称が形成できなかったり、何回か細胞分裂を繰り返した後に発達が止まったものもある。いずれも生存可能な胚になることはできなかった」(ヒメネスグリ)

海洋全体の平均的なプラスチック濃度に比べると、この研究に使ったプラスチック濃度は異常に高かったという。それでも、特定の状況でプラスチックがこれほど高濃度になることはあり得る。

ヒメネスグリは「我々が研究したような濃度の汚染は、PVCペレットの流出のような状況でしか見られない」としながらも、「それが起きることは分かっている。例えば1月にはポルトガル沖で何百万ものペレットが貨物船から流出した」と指摘する。

「石油化学工場付近の河川や海岸も、非常に高濃度の加工前ペレットが含まれることが分かっている。もし、我々の沿岸部でプラスチック汚染がそうした極端な水準に達した場合(特殊なケースで起こり得るが、幸いなことに現時点ではめったにない)、多くの種が繁殖できなくなる可能性があり、海洋生物と環境全体、さらには人間にとてつもない影響を及ぼす」

ヒメネスグリはそう語り、「海へ流れ込むプラスチックの量を減らすため、我々は緊急に行動する必要がある」と言い添えた。

(翻訳:鈴木聖子)

ニューズウィーク日本版 非婚化する世界
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月17日号(6月10日発売)は「非婚化する世界」特集。非婚化と少子化の波がアメリカやヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中