フィールドワークもzoomで済む時代に...国立民族学博物館教授が文化人類学で伝えようとすること【民博特集4/4】
「民博も、いまは、ヨーロッパとか東南アジアとか地域ごとに分けて、こんな文化がありますって展示しています。でも、20年もしたら、『へえ、20世紀の人らの地域イメージってこんなんやったんか』ということになるかもしれないですよね」
「なるほど。言われてみると、日本の民俗学がそんなイメージですね。一般の人間にとっては、いまのことを知る学問というよりも、かつて日本のいろんな土地にあった風習を知る歴史の一部のようなイメージがあります。そうすると民博もやがて、『世界の現在』はなく『世界の過去』を展示する歴史博物館みたいになっていくんですかね......」
民博が開館した1977年、海外に出かけていくことはいまほど気軽ではなかった。民族学や文化人類学といった学問、そしてそのフィールドワーカーたちが、この広い世界の見知らぬ土地に住んでいる人々の暮らしを伝えてくれた。民博は博物館施設としてじっさいのブツを展示することで、人々のリアルを感じさせてくれる存在だった。
しかし、グローバル化によって地域差が消失し、世界がフラットになりつつあるいま、民博の存在意義とはなんだろう? 樫永先生は言う。
「どこかの民族や地域の文化・社会の特質に迫る、みたいなかつてとは、現代の文化人類学は様変わりしています。たとえば移民とか、技能集団とか、対象の幅はどんどん広がり、個人の動きに注目しながらネットワークや関係を分析する研究が増えています」