最新記事
BOOKS

博物館や美術館をうまく楽しめない人は...国立民族学博物館に学んだ「わからなさ」こそ展示も人生も楽しむ秘訣【民博特集2/4】

2025年9月29日(月)10時30分
ミンパクチャン

民博の場合、展示パネルの文字情報が抑制的なのも印象的です。情報が最小限に抑えられることで、来館者が展示パネルの前で立ち止まって文字ばかりを追っているという事態が起きにくくなります。文字で理解しようとしない分、「モノ」そのものと向き合う時間を過ごすことになるのです。

民博教授で『変わり者たちの秘密基地 国立民族学博物館』の監修を務めた樫永真佐夫先生は同書のなかでこう語っています。



「展示パネルに説明文が書いてある場合もありますが、その説明はあくまで研究者個人の解釈なんです。現地の人のあいだでだって、自分たちの文化について様々な解釈がありますし、研究者の解釈に対して現地の人が『それは違う』と異議を唱えることだってあり得ます。研究者の解釈も解釈の一つに過ぎません」(同書225ページ)

これもまた、モノとの対話に正解はないと思わせてくれる話ですよね。博物館は「社会のなかの私」を「完全な個」にしてくれる装置です。「個」になれる絶好の機会を楽しむ心意気で身を置いてみてはどうでしょう。

「わからなさ」が問いを生む

それでも「わからなさ」を居心地の悪さと捉えてしまう方に、とっておきの話を付け加えておきましょう。民博の教授でモンゴルのシャーマンを研究する島村一平先生はフィールドワークに行く学生たちにこう伝えているそうです。


「感動は言わずもがなですが、違和感っておもしろいんですよ。あれ? なんか変やなって思う瞬間こそが、実は宝の山なんです。振り返ってみても、違和感は考えるきっかけをくれることが多いです。感動と違和感を捕まえてほしい。世界をちゃんと感じてほしい」 (同書303ページ)

宝の山の具体的なエピソードについては笑えるので『変わり者たちの秘密基地 国立民族学博物館』で読んでいただきたいのですが、「あれ? おかしくない?」が問いを生むというのは真理です。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 演習2日

ワールド

オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重

ワールド

シリア前政権犠牲者の集団墓地、ロイター報道後に暫定

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ麻薬積載拠点を攻撃と表明 初
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中