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オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重圧も

2025年12月30日(火)14時17分

 欧州連合(EU)で最大規模となるオランダの職域年金(企業年金)は来年1月1日から新制度への移行が本格化し、2兆ユーロ(2兆3500億ドル)弱に上る運用資金をリスク性資産に投じることが可能になる。既に中央銀行や他の年金基金といった大口の買い手からの需要減退に悩まされている長期国債市場にとっては一段の重圧となりそうだ。アムステルダム証取で2019年9月撮影(2025年 ロイター/Piroschka van de Wouw)

Yoruk ‍Bahceli

[ロンドン 29日 ロイター] - 欧州連合(EU)で最大規模‌となるオランダの職域年金(企業年金)は来年1月1日から新制度への移行が本格化し、2兆ユーロ(2兆3500億ドル)弱に上る運用資金をリスク性資産に投じることが可能になる。既に中央‌銀行や他の年金基金といった大口の​買い手からの需要減退に悩まされている長期国債市場にとっては一段の重圧となりそうだ。

従来のオランダの企業年金制度は、世界でも珍しくなった確定給付型年金だ。コロナ禍以前の長年にわたる低金利局面と少子高齢化の進展で物価上昇に見合う給付を確保する難しさが増し、大規模な給付金の削減を強いられるリスク直面してい‌る。

新制度導入に関する法令は2023年に施行された。移行期限は28年。

新制度では、将来の年金と既に積み立てられた年金のいずれも、確定給付が約束されない。給付額は拠出金に基づき、市場環境によって変動する。

年金基金は、社債や住宅ローン債権といったリスク性資産を保有できるようになり、政府債など比較的安全な資産の運用比率を減らすことが可能となる。

それでも退職が近い人向けの投資では比較的リスクを抑え、若い世代向けにはより大きなリスクを取る方式を採用。「連帯」のメカニズムが、リスクの分散と損失の限定を図る上で役立つ形だ。

新制度への移行は来年から本格化する。ABNアムロの試算では、総額5000億ユーロ超の資​産を運用する最初の大規模な年金基金グループが、今年移行した少数の基金に続⁠くことになる。

これらの基金はその後12カ月でポートフォリオを調整し、市場への影響を和らげられる‍と期待されている。アナリストらは、当初金利リスクをヘッジするために使っていたスワップ取引の一部を解消し、より償還が短い資産への切り替えを重視すると予想する。

オランダで3番目に大きい年金基金PMTは、過剰なヘッジを6カ月で解消できると見込むが、市場環境がペースを左右すると述べ、先行きの不確実性を強調した。

一部の基金は今年これまでに移行‍時期の先送りを決めた。移行の複雑さを考えると、さらなる遅れも否定できず、流動性が‍低い年末‌年始に市場を不安定化させる恐れもある。

最大規模のABPを含めたより大規模な基‍金グループは、27年1月に移行を予定している。

<国債市場に影響>

オランダ中央銀行の推計に基づくと、年金基金は満期まで25年以上の政府債と金利スワップの保有規模を約1000億-1500億ユーロ削減する見通し。現在の年金基金の保有規模は政府債が9000億ユーロ、金利スワップが3000億ユーロだ。

市場はこの動きをある程度織り込んでいる。新制度移行が想定される中で、ユーロ圏債券⁠市場の指標となるドイツでは、中期債と比べた長期債による借り入れの上乗せコストが6年ぶりの高水準に達した。

アナリストの間では、イールドカーブのスティープ化は続くとの⁠見方が出ている。ただ今年の場合、スティープ化は債券市‍場よりスワップ市場で顕著だ。

オランダの年金基金は、欧州各国が来年、過去最高の資金調達ニーズに直面する中で、長期債の購入を減らすと予想される。ドイツは財政刺激策を打ち出すための借り入れを増やしている。

そ​うした状況を受け、各国は対応を開始。ドイツは初めて20年債を発行する計画で、この年限は魅力がある点を理由に挙げている。年金基金の国債保有が多いオランダでは、今後の債務の平均残存期間に関する最低目標を引き下げている。

イタリアやスペインなど、債務リスクが高いと見なされる諸国は、逆に恩恵を受けるかもしれない。

ロイター
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