最新記事
BOOKS

憎かった兄の突然死、倒れていたアパートには黒いシミが残り...妹が元妻とタッグを組んで兄を終う

2025年5月2日(金)11時30分
村井理子(翻訳家・エッセイスト)

足元に転がるインスリンの自己注射用注入器の空箱を拾い上げ、ゴミ袋に放り込んだ。その空箱の下から、茶封筒に入った紙の束が出てきた。兄が職安からもらってきた、求人募集の紙の束だった。

兄の履歴書

その束の最後に、兄の履歴書が重ねられていた。糊付けされた証明写真を見ると、私の記憶にある兄よりずいぶん痩せて、晩年の父にそっくりな顔つきになっていたようだ。


ちょっと笑った。眼鏡をかけている。そう言えば塩釜署の山下さんが、糖尿病が進行して緑内障になっていたらしいと教えてくれていた。何気なく兄の履歴書を読んだ。ちゃんとパソコンで作成したものだった。

---
平成四年、衛生設備業を自営
平成二四年、衛生設備業を廃業(連鎖倒産による)
平成二四年、〇〇鉄鋼入社(多賀城市)
平成二五年、退社(自己都合による)
---

以前会社経営をしていた兄には羽振りの良い時期があった。車やバイクを複数台所有し、大きな家を建てたのもその頃だ。しかし、平成二十四年にその会社を廃業し、離婚し、多賀城への転居を決めたあたりで兄の転落がはじまったことがわかる。

兄はそこから七年で、猛スピードで体調を崩し、困窮し、そして死へと突き進んだ。坂道を転がり落ちるように、崖まで一気に駆け抜けるように。

たくさんの資格があっても現実は厳しく

履歴書の裏には資格、免許の欄があり、兄がこれまで多くの資格を取得してきたことを初めて知った。これだけ資格を持っていても、五十四歳のおじさんともなると、仕事に就くことができない現実は世知辛いものだとため息が出た。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P最高値更新、指標軟調で利下げ観

ワールド

トランプ氏、日本車関税引き下げの大統領令に署名 新

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、米雇用統計待ち

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、独立性の尊重を強調 「トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中