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ミーティングは達成すべき目的とシナリオを共有して臨む.... 年収1億円の外資系バンカーに学ぶビジネスの極意とは

2023年5月19日(金)11時40分
黒木 亮(作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

ロンドンの金融街・シティ。世界中の金融機関が集まる。 筆者撮影

肩で風を切る、華やかなイメージとはまるで違う

インベストメントバンカーというと、年収5000万円や1億円はざらで、肩で風を切って仕事をし、ゴールドマン・サックスの社員が女優の石原さとみさんと結婚するなど、華やかなイメージがある。しかし、それは特定の一面で、実際は仕事の成果と効率を上げるため、さまざまな工夫をこらしている。

筆者自身も、ロンドンで国際協調融資や航空機ファイナンスといったインベストメントバンキングに携わった経験があり、今回は一般ビジネスパーソンにも役立つ彼らの習慣を紹介する。

筆者が1988年に邦銀のバンカーとしてロンドンに赴任し、最初に痛感させられたのが、欧米のホワイトカラーの効率的な働き方である。

目から鱗だったのが、外部とのミーティングをやるとき、そのミーティングで自分たちは何を達成(achieve)したいかを明確にし、どういう会話で話し合いが進むか予想し、相手がこう出てきたらこう話を持っていくというシナリオを全員が共有して臨むことだ。これは正式なプレゼンテーションはもとより、どんな些細なミーティングでも行われていた。

日本の「アポなしぐだぐだスタイル」は通用しない

当時、邦銀では(今もかなりそうだと思うが)客のところにアポなしで行って、「こんちはー、いかがっすかー?」と世間話を始め、その中から何となくニーズを拾うという「ぐだぐだスタイル」だった。しかし、ロンドンに赴任し、欧米式でやると、ミーティングが短時間で終わり、成果も上がるので、発想を全面的に改めた。

今では友人と会食するときでも、こんな話をしようとか、こういうことを訊(き)こうといったメモを必ず1枚ポケットに入れていく。そうしないとせっかくの会食が無駄になる。

出版社との打ち合わせでも、話すべきことや質問のメモを手元に置いて、一つずつ消し込みながら進めるので、いつも20分くらいで終わる。

インベストメントバンカーは「ディール・メーカー」で、M&Aやファイナンスをダイナミックに取り仕切るというイメージがある。確かにそれも一面だが、できる人たちは事務を非常に大事にしている。事務がしっかりしていなければ、トラブル処理に時間をとられたり、顧客との信頼関係を損なったりするので、「すべてはまず事務から」というのが、万国共通のアプローチである。

国際協調融資の取引先(借入人)にパムック銀行(Pamuk Bank)というトルコの銀行があったが、そこの国際部にレフィーク・センチュルクという筆者と同年配(当時30代前半)の男性がいた。

すべてを3時間前に片付ける人、窓口に立つ支店長...

あるときふと彼の腕時計をみたら、針が3時間進んでいたので、驚いて理由を尋ねたら、すべてのことを3時間前に片付けているのだという。確かに彼の仕事は漏れもなく、非常にきっちりしていたので、信頼できた(アポイントメントなどは実際の時間で管理していて、間違えることはなかった)。

大手米銀バンカース・トラストの協調融資部門のmanaging director(部長級)だったドワイヤーという名の米国人男性は、仕事のスケジュール用のノートに毎週日曜日のオペラのチケットを挟んでいて、毎週土曜日に出勤して黙々と事務を処理し、日曜日にオペラに行くのを習慣にしていた。

国内でも、筆者が勤務した邦銀に長谷川さんという、必ず業績を上げる取締役支店長がいた。彼は勝手に「1日支店長」という制度をつくり、本来窓口係や為替係である若い女性を支店長の席に座らせ、自分はその間窓口係や為替係をやっていた。

彼が何をしていたかというと、現場の無駄をみつけ、それを改善することで、営業を底上げしようとしていたのだ(たまに本店から頭取が電話してきて、支店長席に座った窓口係の若い女性があわてふためき、「し、支店長さん、とっ、頭取からお電話です!」と叫ぶと、「今日はあなたが支店長だから、あなたが答えなさい」といって札を数えたりしていたらしい)。

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ジンバブエの首都ハラレで、ANZグリンレイズ銀行幹部とランチをする筆者 筆者撮影

仕事がデキる人はみんな、たっぷり睡眠をとる

インベストメントバンカーは「熊の尻を噛みちぎる(bite the ass off a bear)」勢いで目覚め、その勢いで出社して、ガンガン仕事をしなくてはならないといわれる。わたしも国際金融マン時代は毎朝、熊の尻を噛みちぎる覚悟で出勤し、中近東・アフリカというリスクの高い地域を担当していたので、「メイク・アンバンカブルズ・バンカブル!(銀行取引に適しないものを適するように変える!)」と両手の拳を握りしめていた。そうしないと、生き馬の目を抜く国際金融市場で、いいディールはもぎ取れない。

あまり知られていないが、これをできるようにするには、毎日十分な睡眠をとることが必要だ。よく日曜の夜遅くまで遊んだり、出かけたりして、月曜日に疲れのたまった状態で出社し、何とか根性でその日をやり過ごそうとする人たちをみかけるが、そんな状態ではエネルギーも集中力もなく、「熊の尻を噛みちぎる」ことはできない。インベストメントバンカーに限らず、どの業界でもできる人たちは(案件が切羽つまったときは例外だが)、普段から十分な睡眠をとるように心がけている。

週末の1日は事務作業に充て、後れをとらない

インベストメントバンカーは、週末も少なくとも1日くらいは仕事をしている人が多い。月曜から金曜まで営業で駆けずり回っていると、金曜の夕方にはやるべき事務が山積状態となり、また取引先や担当エリアに関する知識も吸収しなくてはならない。

筆者も週末はたいてい出社し、出社しないときは家で仕事の資料を読んでいた(当時、案件が多かったトルコの情勢をフォローするため「Turkish Daily News」という英字日刊紙を購読しており、毎日トルコから航空便で送られてくるので、出張で留守にするとたまって、読むのが大変だった)。

かつての国際金融仲間で、後にメガバンクの頭取まで上り詰めた人と、2012年8月にたまたま2人とも同じ時期にサンフランシスコに出張していたので、オムニサンフランシスコ(ホテル)で朝食を共にしたが、当時常務だった彼も「週末の一日は出社して静かなオフィスで仕事を片付け、もう一日は運動をしている」と話していた(たぶん彼の銀行も働き方改革をしているだろうから、あえて実名は出さないが)。

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トルコ・ガランティ銀行向け国際協調融資調印式後のランチでの筆者(左から2人目) 写真=筆者提供

人より2日多く働くだけで2~3倍の差がつく

先日、マーケティングを仕事にしている人が「土日関係なく365日稼働しているチームと一緒に働いていると、1年あたりの進捗・成長率が他の企業と比べて圧倒的に良いと分かる。単純計算だと5分の7=1.4倍だが、成果は複利で効くし、市場で一歩抜け出すと選ばれる確率もグンと上がるので、週7稼働で2~3倍の差をつけてる感じ」とツイートしているのを見かけ、うなずかされた。結局はやった者が勝つということだ。

10年ほど前までユニクロの上級幹部だった人を取材したときも「週末に店長やSV(スーパーバイザー)から300~400通の意見や要望のメールが送られてくる。月曜の朝3時頃までかかってそれを処理し、自分なりの考え方を持たないと、柳井社長も出席する月曜日の部長会議で議論できない」と聞かされた。これなども365日稼働しているチームの一例である。

口がうまい以上に、人の話を聴くのがうまい

インベストメントバンカーは口八丁手八丁と思われているが、むしろ人の話を聴くのがうまい人が多い。

同い年の友人で、米系投資銀行JPモルガン・チェースの中央アジア・トルコ・中東地区のCEO(最高経営責任者)を務めたムラード・メガッリというエジプト系米国人バンカーがいたが、彼と電話で話すと、相槌も打たずにじっとこちらの声に耳を澄ましているので、真空に向かって話しているような錯覚に陥ったものである。

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筆者が組成したトルコ実業銀行向け国際協調融資の調印式の様子 写真=筆者提供


筆者が勤務した邦銀の国際審査部にも、かつて中南米でマンデート(主幹事)ハンターとして活躍し、筆者がやっていたようなソブリン・準ソブリン(国家・国営企業向け)案件の可否を実質的に決めていた上席審査役がいたが、彼も電話で話すと真空のようになってこちらの話にじっと耳を傾けるタイプだった。こういう人たちは数少ないが、皆、仕事ができる人たちだった。

筆者は一度、ある難しい案件で英国人と交渉していたとき、電話の会話を録音し、あらためて聴いてみたことがあるが、声のトーン、間合い、言い回しなどから相手の心理が手に取るようにわかって驚いたことがある。ムラードや上席審査役は、言葉だけでなく、声のトーンなどにも注意を払って、こちらの真意を読み取ろうとしていたのだろう。

(ムラードとは、彼の二卵性双生児のシスターでジャーナリストのモナや筆者の妻も交え親しく付き合っていたが、残念なことに2011年に、乗っていた小型ジェット機が北イラクで墜落し、亡くなってしまった。)

エリートでも英語はTOEIC750点で十分

筆者がロンドンの国際金融市場で働いてみて実感するのは、(米国人や英国人等のネイティブは別として)英語がうまい人はそれほど多くないということだ。世界中のバンカーと仕事をしたが、だいたいTOEIC750点前後というイメージである。

典型的なのが、筆者が所属した国際審査部の上席審査役で、スペイン語とポルトガル語の専門家で、英語は「and」と日本語の「その、何だ」を混ぜた「ザンナー」という意味不明の語を頻繁に混ぜて話す人だった。米銀に勤務する筆者の友人は「あれはズーズー弁の英語ですね」と苦笑していた。

しかし、ブラジルのマルシーオ・モレイラ経済相が来日して、東京のパレスホテルで日本の民間銀行向けにブレイディ・プラン(債務削減策)の説明会を開いたとき、他の銀行の出席者たちが大人しく聴いている中でただ一人、こう詰め寄った。

books20230518.png「お前のいってることは、昔いってたことと同じじゃないか! 前回のリスケ(債務繰り延べ)のときも返済原資について明確な説明がなく、すぐにデフォルト(債務不履行)した。

今回も、ブレイディ債への転換後、返済原資はどうなるかという明確な説明がない。ブラジルが前回と同じことを繰り返さないとわれわれが納得できるように説明しろ」とズーズー弁の英語で容赦なく指摘し、自国の外貨繰りに自信がなかったモレイラ経済相を立ち往生させた。

ビジネスの世界では、英語の流暢さよりも、自分の発言に徹底して責任を持つことや、その人が話したことが必ず組織内で同意が得られるという、所属する組織の中でのグリップの強さが重視される。英語はNHKの番組「COOL JAPAN」の参加者たちが話している程度で十分で、TOEICで750点くらいまでいったら、あとは実戦で覚えたほうがいい。試験のための勉強ほどつまらないものはないし、そうしたほうが効率的で生産性も上がる。

黒木 亮(くろき・りょう)

作家
1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学大学院(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務し、国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス、貿易金融、航空機ファイナンスなどを手がける。2000年、『トップ・レフト』でデビュー。主な作品に『巨大投資銀行』、『法服の王国』、『国家とハイエナ』など。ロンドン在住。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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