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「酒は百薬の長」は間違いだった 最新研究で判明「酒と健康は共存できない」

2023年3月13日(月)11時45分
生田 哲(科学ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

「ワインの前にビールを飲むと二日酔いしない」はウソ

当然、二日酔いを軽減する、あるいは防ぐ方法を模索する。だが、二日酔いへの有効な対策は存在しないので、どうしても言い伝えに頼ることになる。これが賢い選択となることもあるが、そうでない場合もある。ビールを先にワインを後に飲むと二日酔いが軽減される、という言い伝えの真偽を検証するために、ドイツで真面目に実験が行われた。被験者は19~40歳の健康な大人、90人。そして被験者をランダムに3グループに分けた(*1)。

グループ1は、まず、ビールを飲んだ。どこまで飲むかというと、呼気のアルコール濃度が0.05%に達するまで。次に、ワインを濃度が0.11%になるまで飲んだ。これだけ飲んで運転したら、アルコール規制の緩いアメリカでも酒酔い運転で捕まる。グループ2は、まず、ワインを濃度が0.05%に達するまで飲み、次に、ビールを濃度が0.11%になるまで飲んだ。そしてグループ3は、ワインまたはビールを濃度が0.11%に達するまで飲んだ。

1週間後、同じ実験をくり返した。ただし今回は、グループ1とグループ2のメンバーを交代した。だから、ワインやビールを飲む順番が最初のものと入れ替わった。グループ3ではワインを飲んだ人はビールを、ビールを飲んだ人はワインを提供された。どのグループも、性別、体格、飲酒習慣、二日酔いの頻度は似ている。

そして、被験者に症状(ノドの渇き、疲労感、頭痛、めまい、吐き気、胃痛、動悸(どうき)、食欲不振)を申告してもらい、「急性二日酔いスケール」という基準にしたがって二日酔いを評価した。

(*1)Köchling J et al. Grape or grain but never the twain? A randomized controlled multiarm matched-triplet crossover trial of beer and wine. Am J Clin Nutr. 2019. Feb 1, 345-352. PMID: 30753321

二日酔いの症状と「ちゃんぽん飲み」は無関係

言い伝えによると、「ワインより、まず、ビールを飲むと、二日酔いになりにくい」。この格言の一般的な説明は、最初にワインを飲み、次にビールを飲むと、ビールに含まれる二酸化炭素によってワインのアルコールが迅速に吸収され、酔いと二日酔いが深刻化する、と。

だが、この研究で明らかになったのは、そういうことではない。ワインだけ飲むとか、ビールだけ飲むとか、あるいはビールとワインを飲む順番を変えるとかは、二日酔いの頻度や症状とはまったく関係がなかった。

驚くことはない。重い二日酔いであることを示す最もわかりやすい指標は、飲んだ翌朝にどう感じるか、または、飲んだ後におう吐したかである。アルコールはビール、ワイン、日本酒、ウイスキー、焼酎など、どんな形式で摂取しようと、効率よく、迅速に体内に吸収されるから、ちゃんぽんで飲んだとか、ワインやビールだけ飲んだとかいうことで、二日酔いになりやすさに違いはない。

私がこの論文を読んで思ったことは、おそらく読者も同じように感じておられるだろうが、この研究は優先順位の上位にランクされるものなのか、という疑問である。おそらく、「遊び心」での研究だろう。それより大事なことは、アルコール飲料を飲む際に、どれを飲むかという選択や順番に関係なく、飲んだら運転しないこと、飲酒をストップするタイミングを誤らないことである。

「酒は百薬の長」は科学的には間違っている


【神話】
少しの飲酒はまったく飲まないよりも健康にいい

「酒は百薬の長」といわれるように、昔から適度の飲酒が健康によいという考えがある。たとえば、カゼを引いたときに酒を温め、これに鶏卵を入れて飲む「卵酒」。「卵酒」の起源は不明だが、民間療法として江戸時代にはすでに利用されてきたようである。では、酒は健康にいいのか?


【科学的検証】
ウソである。

今でも、酒が健康によいという主張がテレビや新聞といった古いメディアだけでなく、インターネットといった新しいメディアでも喧伝されている。

巷では、赤ワインがスーパーフードと称する食品リストに掲載されているのを目にする。グレープの皮に含まれるレスベラトロールという物質が心臓の健康にいいと主張する。確かに、1杯の赤ワインが心臓の健康に効果的であるという考えを支持する多くの論文が発表されてきた。

それなら、心臓を守るために赤ワインを飲み始めようか? やめたほうがいい。もし、今、あなたが飲酒していないなら、よりよい健康を求めてわざわざ飲み始める必要はまったくない。

アルコールは飲めば飲むほど体に悪い

これまでは、飲酒に健康効果はなくとも、少しの飲酒なら害にはならないと思われてきた。たとえば、アメリカでは「よりよい健康を求めて酒を飲むべきではないが、適度な飲酒(女性は1日1杯、男性は1日2杯まで)なら害にならない、あるいは有益かもしれない」と主張されてきた。

これは、アメリカ人のためのダイエットのガイドラインに明記され、「アメリカ心臓協会」や「アメリカがん学会」といったアメリカを代表する権威ある学会も支持を表明してきたものである。これらの主張は正しいのか?

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