最新記事

英語

ネイティブが話す「本物」の英語は世界の職場で通じない

Why Native English Speakers Fail to be Understood in English

2019年1月22日(火)18時20分
スペンサー・ヘイゼル(英ノッティンガム大学研究員、応用言語学)

我を通すばかりのネイティブは海外の同僚たちに距離を置かれてしまいがち Rawpixel Ltd-iStock.

<英語のネイティブは国際語としての英語が苦手で、国際的な環境で働き慣れた人たちからも理解してもらえない>

言語はよく、社会統合の基礎だと囃される。人は言葉ができて初めて、地域社会に溶け込むことができるのだ、と。

デービッド・キャメロン英首相が今年1月、英語学習に2000万ポンド(約32.6億円)の補助金を出すと発表したのも、言葉ができずに疎外された移民が過激思想に走らないようにするためだ。米共和党の大統領候補を目指すドナルド・トランプも、移民はアメリカ社会に同化し英語を話せと要求している。

だが、人やモノが容易に国境を超えるようになった今、問われているのはむしろ、アメリカやイギリスで生まれ育った「ネイティブ」たちの英語力だ。世界中の多様な人々からなる国際的なコミュニティで、ネイティブたちは「英語」を適切に話せているだろうか?

英語を母国語とする人は、多くが外国語を話せないことで悪名高い。これは仕事のハンディになるだけでなく、貿易の妨げにもなることが知られている。

皮肉なことだが、国際ビジネスにいちばん適応できずにいるのは、環境に応じて自分の英語を変えられない英語の「ネイティブ」たちだということが、数々の研究で明らかになっている。英語は、ビジネスはもとより高等教育や国際協力などに使われる国際語だが、調査によると、ネイティブたちは国際語としての英語が苦手だ。母国語の上に胡坐をかいている場合ではないというのに。

不可解な苦境

英語を母国語とする人は、自分が不可解な苦境に立たされていることに気づく。世界では誰もが英語を話すと聞いていたのに、いざ海外に来てみたら、同僚も取引先も自分の英語を理解してくれない。

ビジネス言語としての英語についての調査研究の中で、デンマークに住むイギリス人は次のように語っている。

「(デンマークで)仕事を始めたとき、イギリスにいるときと同じように普通に英語を話していたら、周りの人たちに通じなかった」

このイギリス人と共に働くデンマーク人たちは、様々な国から来た人と英語で仕事することには慣れている。問題は、英語を母国語とする人たちのほうだ。欧州各国からやってきた人々と英語で仕事をすることに慣れたスペイン人の学生は、「今では本物の英語を理解するほうが難しい」と、研究者に語っている。

そもそも「本物の英語」とは何か、という問題もある。そこには、イギリスのリバプールやニュージーランドのウェリントン、南アフリカのヨハネスブルクからアメリカのメンフィスまで、目まいがするほど広範な、あらゆる種類の方言が含まれているのだ。

コミュニケーションの機能不全

日本で働くアメリカ人マネジャーは、彼が依頼した「大よその数字(ballpark figure)」を日本人部下がなぜ持ってこないのか理解できない。"ballpark figure"はアメリカのビジネスでは1日に1回は必ず出てくるほどの頻出単語だが、外国人にはそれがわからない。こうしたコミュニケーション不全が続けば、互いに不信感が募る。海外を行き来するネイティブには、自国の文化や言外の意味、ジョークがまったく通じないと、しまいには怒りと疑念を抱くなるようになる。

一方、英語を母国語としない国から来た同僚たちから見れば、英語しか話さない英語ネイティブは努力不足に見える。英語を難なく操る英語ネイティブが隣りにいると、職場での地位を奪われそうに感じる。英語ネイティブが自分の言語能力を利用してうまく立ち回ろうとしているのではないか、と疑うようになる。

筆者が最近日本で会った国際的な企業連合の幹部によると、彼や海外パートナーたちは、アメリカ人とイギリス人のパートナーたちが英語でまくしたて合うような会議では、なるべく口を出さないようにしているという。その代わり、会議の後に個別に意見交換や意思統一を図る。会議でさんざん喋りまくった英米人は、その中に入れてもらえないのだ。

これは深刻な問題だ。英語ネイティブ、なかでも他の言語を習得していない人は、ブレストであれ転職であれ、大事なビジネスチャンスを逃しているかもしれない。国際的な英語のコミュニケーションに何が必要とされるか、基本的な理解が欠如しているためだ。

その点、紀行作家のピコ・アイヤーは、さしずめ国際コミュニケーションの達人といえるだろう。以前、彼は著書の中で、イギリス人の友人が京都にアイヤーと彼のパートナーを訪ねたときのことについて書いている。「私たちはまったく重要でない会話から始めた。私は、イギリス人の友人と日本人のパートナーの英語のやりとりを、英語から英語へと素早く通訳した」

自分と同じような相手と働くのがはいちばん楽だという英語ネイティブは、英語ネイティブでない相手から距離を置かれる可能性がある。

キャメロン首相やトランプ氏のような政治家もここから教訓を学ぶべきだ。英語を第二、第三、第四言語として話す人たちの問題ばかりを強調するより、英語を第一言語とする人々が海外で直面する問題に備える授業を行う方が賢明だ。

スコットランドの詩人ロバート・バーンズの以下の言葉を心に留めておきたい――それを理解できるのならだが。

「神よ、人がわれらを見るごとく、
  己れを見る力をわれらに与えたまえ」

英語を母国語としない人にとって、自分の話す英語がどれだけ奇異で理解不能か、ネイティブは彼らの立場になって自分を知り、配慮する必要がある。それが、国際コミュニティーの良いメンバー、そして魅力的なビジネス・パートナーになる第一歩だ。

<この記事は2016年3月7日掲載記事の再掲載です>

Spencer Hazel is Research Fellow of Language and Social Interaction, University of Nottingham

This article was originally published on The Conversation.

The Conversation

関連ワード

ニュース速報

ワールド

サウジ皇太子、カショギ記者殺害を承認 米が報告書

ビジネス

デジタル課税、米が「セーフハーバー」提案取り下げ 

ワールド

米感染減は鈍化、「抑制策緩める時でない」=CDC所

ワールド

米国務長官、メキシコを「バーチャル訪問」 移民や貿

MAGAZINE

特集:ルポ新型コロナ 医療非崩壊

2021年3月 2日号(2/24発売)

第3波の日本で「通常」の医療体制は崩壊したが現場には硬直した体制を変え命を守った人々もいた

人気ランキング

  • 1

    屋外トイレに座った女性、「下から」尻を襲われる。犯人はクマ!──アラスカ

  • 2

    弁護士の平均年収は4割減 過去十年で年収が上がった職業、下がった職業

  • 3

    タイガーが暴露症の女ばかり選んだ理由(アーカイブ記事)

  • 4

    日本の電波行政を歪めている真犯人はだれか?

  • 5

    アイルランド母子施設で子供9000人死亡、発覚したき…

  • 6

    新型コロナ関連の小児病MIS-Cで10歳の少年が両手と両…

  • 7

    免疫機能調整で注目のビタミンD、取り過ぎるくらいが…

  • 8

    全身が炎症を起こす新型コロナ関連の小児病MIS-Cで米…

  • 9

    医療「非」崩壊──医療現場が示す新型コロナ4つの新…

  • 10

    中国はアメリカを抜く経済大国にはなれない

  • 1

    屋外トイレに座った女性、「下から」尻を襲われる。犯人はクマ!──アラスカ

  • 2

    中国はアメリカを抜く経済大国にはなれない

  • 3

    トランプにうんざりの共和党員が大量離党 右傾化に拍車か

  • 4

    動画で見る、トランプ時代の終焉の象徴

  • 5

    ロシアの工場跡をうろつく青く変色した犬の群れ

  • 6

    あらゆる動物の急所食いちぎり去勢も? 地上最凶の…

  • 7

    弁護士の平均年収は4割減 過去十年で年収が上がった…

  • 8

    アメリカの顔をした中国企業 Zoomとクラブハウスの…

  • 9

    対日レーダー照射だけじゃない......韓国「軍事行政…

  • 10

    強大化する中国を前に日米豪印「クアッド」が無力な…

  • 1

    フィット感で人気の「ウレタンマスク」本当のヤバさ ウイルス専門家の徹底検証で新事実

  • 2

    ロシアの工場跡をうろつく青く変色した犬の群れ

  • 3

    屋外トイレに座った女性、「下から」尻を襲われる。犯人はクマ!──アラスカ

  • 4

    さようならトランプ、負債3億ドルと数々の訴訟、捜査…

  • 5

    新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」…

  • 6

    韓国メディアが連日報道、米日豪印「クアッド」に英…

  • 7

    全身が泥で覆われた古代エジプト時代のミイラが初め…

  • 8

    中国はアメリカを抜く経済大国にはなれない

  • 9

    現役医師が断言、日本の「ゆるいコロナ対策」が多くの…

  • 10

    こんなに動いていた! 10億年のプレートの移動が40秒…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月