偉大な小説は最初のページで分かる――ダガー賞受賞『ババヤガの夜』翻訳者が語る舞台裏

BLURRING THE LINES OF MYTH

2025年9月19日(金)15時50分
サム・ベット(翻訳者、小説家)

ユーモアあり惨劇あり愛あり復讐あり変身あり、壮大な物語の特徴が揃っている。200ページに満たない小説に、お楽しみがこれでもかと詰まっている。

作家の仕事と翻訳者の役割

多くの意味で愛すべき小説だが、商業的成功を収めた理由を特定するのは無謀だろう。世間の評判は作者がコントロールできる範囲をはるかに超えているし、出版社のプロモーションには限界がある。

翻訳は本に特別な「第2のチャンス」を与える。本質を変えることなく、新しい命を吹き込む。翻訳は再生の芸術なのだから。

言葉を選んでストーリーを形作るのが作家の仕事だとしたら、作家が下した選択を土台に、さらに徹底して言葉を選ぶのが翻訳者の仕事。作家、出版社、翻訳者として私たちにできるのは、これはと思う本に賭けることだけだ。

英語版が国外で賞を受賞していなければ、『ババヤガの夜』の歩みはかなり違っていただろう。だが賞を取らなければ、本の価値は下がるのか。商業的な意味ではそうかもしれない。

しかしストーリーテリングの巧みさや楽しさという点では、読者の手に届くのは同じ本のはずだ。それは異なる読者に向けた異なる言語であったとしても。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米上院、つなぎ予算案を否決 政府閉鎖の可能性高まる

ワールド

ロシア戦闘機3機がエストニア領空侵犯、NATO緊急

ワールド

米中首脳、来月の直接会談で合意 TikTok交渉で

ビジネス

オープンAI、中国企業と製造契約か 専用デバイスの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 2
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 3
    【クイズ】21年連続...世界で1番「ビールの消費量」が多い国はどこ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    イタリアでバズった日本小説って知ってる?――芥川か…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 9
    トランプに悪気はない? 英キャサリン妃への振る舞い…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 9
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中