最新記事

音楽

【追悼】チャーリー・ワッツのようにドラムを叩ける者は、もう現れない

Death of a Drummer Legend

2021年9月1日(水)17時35分
ジャック・ハミルトン
チャーリー・ワッツ

ストーンズの要であり続けたワッツ TAYLOR HILL/GETTY IMAGES

<不朽のストーンズの不動のメンバー、チャーリー・ワッツが80歳で死去。唯一無二のドラマーに捧げる別れの歌>

「テクニックで世界一のドラマー」に選ばれるはずのない男――8月24日に80歳で死去したローリング・ストーンズのかけがえのないメンバー、チャーリー・ワッツはそんなミュージシャンだった。

ドラム技術は第一級ながら平凡で、テンポ感はメトロノームの正確さとは程遠かった。だが音楽、特にロックンロールは不思議なもの。客観的には欠点でしかない特徴が、ワッツの偉大さを形作る上で不可欠の要素になったのだから。

ワッツは音楽性全体が各部の総和をはるかに超えるドラマーで、世界で最も偉大なロックバンドの魂を構成する並外れた一部だった。

ストーンズが初めてシングルを発表したのは1963年。当時、ロックンロールとリズム・アンド・ブルース(R&B)は音楽的観点から言えば、ほぼ未分化だった。ジャズから音楽の道に入ったワッツはおそらくそれ故に、イギリス最高のR&Bドラマーに成長することになる。

その演奏には軽快で即興的なリラックス感があり、どんな音楽も直感的に自分なりにプレーできる者ならではの音があった。独学のジャズ演奏者だったため、フレッド・ビロウなど、アメリカの有名なブルース系ドラマーを必死でまねることもなかった。おかげで、当時のイギリスの若手ブルースミュージシャンの多く(ストーンズの仲間の一部もそうだった)がとらわれていた影響とは無縁でいられた。

グループの頭脳として

ストーンズの偉大なライバルで、永遠の比較対象であるビートルズは「神の導き」の所産とよく言われる。才能に満ちた4人の若者が10代のうちに、それもリバプールという地方都市で巡り合うことがなぜできたのか――。

一方、バンド活動を通じて知り合いだったロンドンの5人の若者が結成したストーンズについて、同じ問いが投げ掛けられることはあまりない。だが人類史上最も独特にして、互いを完璧に補完するリズム感を持つ2人、ワッツとキース・リチャーズが同じバンドに参加したのはビートルズの場合と同様に驚異的だ。

ドラマーは、しばしばバンドの「鼓動」と形容される。言い換えればバンドの頭脳はほかのメンバーということだろう。とはいえ、ストーンズは正反対だった。ギターのリチャーズが絶え間なく脈打つ心臓であり、ワッツは司令塔の脳として、心臓が送り出す血の奔流をウイットやスタイル、クールさに変換していた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中