最新記事

米メディア

天皇と謁見した女性経営者グラハム(ペンタゴン・ペーパーズ前日譚)

2018年3月29日(木)17時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

私の立場は社長だったが、女性であることに変わりはなく、香港特派員だったボブ・マッケーブから、男性のみの会食や、相当な数の説明会などをこなす意志が「本当に」あるのかどうか質(ただ)す手紙を受け取った時は困惑した。多少憤慨した調子で「もちろん、やります」と、次のような返事を送った。「私は業務を遂行しているのですから、一緒に仕事をするのが女性であろうと男性であろうと関係ありません。たまたまこのような仕事に就いているのですから、出来るかぎりのことを学ぼうと考えています」

しかしながら、いくつかの女性特有の問題は避けようもなかった。これは、一九六五年一月末に、出発地サンフランシスコでオズ・エリオットに会った時、彼の表情に表われた一種恐怖の表情で端的に示されていたようにも思う。

私はその時、黄色と赤で塗り分けられた非常に目立つ大きな箱を抱えていた。箱には「ケネス」と書かれていたが、これはニューヨークの有名なヘアドレッサーの店名だった。一九六〇年代中頃には、長期の旅行中に美容院へ行く必要がないよう、後髪の部分に「フォール」というヘアピースを付け、前髪の部分は自前の毛を巻き上げて全体的にボリュームを持たせておくのが流行していたのである。私の派手な箱の中には、頭の形をしたフェルトにピン止めされた「フォール」、つまりかつらが鎮座していた。私を見るなり、オズは厳かに宣言した。「それを持ち運ぶのが私の役目とは考えないでいただきたい」。オズが箱を抱えている姿を想像すると思わず笑ってしまったが、私はもちろん「心配ご無用。私が自分で運びます」と答えた。この件はそれで片がつき、私たちは出発した。

最初の目的地は日本で、当時最大の数百万部の発行部数を誇った朝日新聞の訪問から旅程が始まった。次に訪れたのは大手の広告会社「電通」で、ここではまず「歓迎フィリップ・L・グラハム夫人」と書かれた大きな掲示に啞然とさせられた。そして玄関を入るなり、八〇人ばかりの主に若い女性たちが拍手で迎えてくれたのだった。典型的な日本式の歓迎なのであろうが、こちらはびっくりするばかりだった。

佐藤首相とも短時間ではあったが会談し、続く数日の間に、宮沢喜一、中曽根康弘とも個別に会談することができた。この二人はともに後に首相になった。これを告白するのはきまりが悪いのだが、私とディー・エリオットとは、この世界旅行で出会ったセクシーな男性のリストを作成しており、中曽根氏との会談の最中、彼は当然このリストの中に入るだろうなと考えていたことを記憶している。

二月一日に、私たちは天皇・皇后両陛下に謁見する機会を得た。伝えられたところによれば、これは、海外から個人の立場で訪れた女性に対して、陛下が初めて正式な会見を許諾された記念すべき出来事なのであった。荘重華麗でお伽話のような思い出の一方で、この会見には、確かにミュージカル・コメディーのような要素も含まれていた。謁見場所まで導かれる前に、私たちは縞ズボンの侍従による説明を受けた。私たちは彼に、天皇陛下と握手をしてよいものかどうか、握手ではなくお辞儀をすべきなのか、あるいは他の形で敬意を表するべきなのかどうか等々について質問をした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中