最新記事

映画

『ジョン・カーター』は歴史に残る失敗作

2億5000万ドルを投じたディズニー生誕110周年記念作が台無しになってしまった理由

2012年3月23日(金)16時35分
クリス・リー

「意味不明」 野心だけは『アバター』並みだったが(日本公開は4月13日) ©2011 Disney. JOHN CARTER™ ERB, Inc.

 ディズニーが2億5000万ドルを投じた最新の3Dスペクタクル巨編『ジョン・カーター』に、ハリウッド中が首をかしげている。「ウォルト・ディズニー生誕110周年記念作」と銘打つ野心は『アバター』並みだが、興行的には映画史に残る大失敗になりそうだ。

 このSFアクションのCMを見た人も、一体何の話かといぶかったことだろう。革の武具を着たマッチョな主人公が円形闘技場でエイリアンと戦い、四つ足の獣の群れを蹴散らし、セクシーなプリンセスを誘惑する。まるで『グラディエーター』と『タイタンの戦い』と『スター・ウォーズ』を一緒くたにしたような作品だ。

 前売り状況から見た興行予想は今のところ惨憺たるもの。「オタク世代は振り向かないし、家族連れには気味が悪過ぎる。ディズニー・ブランドを冠しておいてランクはPG13(13歳未満は保護者の指導が必要)。一体誰に見てほしい映画なのか分からない」と、ライバル映画会社の幹部は言う。

 責任追及の矛先は製作現場からカリフォルニア州バーバンクのディズニー本社に移っている。ただリッチ・ロス会長にとって幸運なのは、『ジョン・カーター』は前任者から引き継いだ作品だということ。4億ドルの興行収入を上げなければ赤字になるピンチだが、非難の的にされることは逃れている。

大作なのに監督が力不足

 映画の原作『火星のプリンセス』を書いたのは、『ターザン』で知られる小説家エドガー・ライス・バローズ。彼の小説を映画化する話は80年代からたくさんあった。トム・クルーズも含めてさまざまな主演候補や監督候補の名が挙がっては消え、07年に遂に映画化を決めたのが当時のディズニー会長ディック・クックだ。そして脚本・監督に起用されたのがピクサーのアンドリュー・スタントンだった。

 スタントンはアニメ映画『ファインディング・ニモ』と『ウォーリー』の2作品で14億ドル近くを売り上げた実績があるが、実写アクション映画の『ジョン・カーター』にスタントンという人選はハリウッドを驚かせた。「これだけの大金を使いながらスターが出ない。そんな映画を成功させられるのはピーター・ジャクソンかジェームズ・キャメロンぐらいだ」と、別の映画会社の幹部は言う。

 いずれにせよ、ロスの力量が本当に問われるのは『オズの魔法使』の前章に当たる『オズ』など、彼が会長として製作を決めた大ヒット狙いの作品が公開される13年以降だ。「『ジョン・カーター』が失敗しても、ロスは古くからいる経営陣に責任を取らせて自分は生き延びるだろう」と、ライバル会社の幹部は言う。

 ただし、5月に公開するマーベル・コミックスの『アベンジャーズ』の成否となれば話は別だ。この作品と『アイアンマン3』の配給権を買収したのは、ロス自身だからだ。先のライバル会社幹部は言う。「もし『アベンジャーズ』までが駄作だったら、ロスはまったく違う運命を歩むことになるだろう」

[2012年2月29日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

米ミネソタで州議員が銃撃受け死亡、容疑者逃走中 知
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中