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インタビュー

大人として生きるのは大変、韓国には「自分一人食わせていくのも手に余る」という言葉もある

2020年12月25日(金)17時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部、翻訳:生田美保

――今作の中で一番気に入っているパートとその理由を教えてください。

「無条件に自分を抱きしめてあげられるのは自分自身だけかもしれない。」(144ページ)というくだりを挙げたいです。

私は他人への依存度が高めな人間なので、生きていて大変なことがあるたびに、いつも他人のせいにしてきたように思います。どうして私をもっと理解してくれないの、どうしてもっと私の言うとおりにしてくれないの、と責めたり恨んだりする対象を探しました。

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『ほっといて欲しいけど、ひとりはいや。』144ページより

でも、その過程で、私自身より私のことをよく理解してくれと他人に強要することは、まわりの人たちを苦しめるし、自分も苦しいだけだと感じることが多かったんです。

それで、自分自身と世の中への理解を深めるための努力を続けてきたところ、その記録がたまって本も書けるようになりました。

今回の本は「関係」についての話ですが、すべての人間関係は結局「自分」から始まるんですよね。 だから「自分がまず自分を抱きしめてあげなくてはいけない」というメッセージがこの本の核心ではないかと思います。

――今作はどんな方に読んでほしいでしょうか。

私が20代後半から30代前半にかけて感じたことの話なので、その年代の方たちに読んでもらえれば一番役に立つだろうと思っていました。でも、韓国の読者たちの評価を見ると、意外と30代半ばから40代半ばの方たちもたくさん共感してくれています。

どちらの時期も、就職や転職、結婚後の家族の広がり、出産と育児などを通して関係の断絶または変化を経験する時期です。

人間関係の変化が多い時期のせいか、同じエピソードでも各自の状況に当てはめて読むことで、慰められているようです。

日本と韓国は家族文化、社内文化などに似たようなところが多いので、人間関係に難しさや疲労感を感じている人なら誰でもこの本が助けになると思います。

――コロナ以降の息苦しい時代、私たちはどう生きていくべきでしょうか。

そうですね。最も難しい質問ですね。同じ時代を生きていますが、それぞれが置かれた状況によって厳しさが異なるでしょうから。

今はまだ私も方法を模索している段階です。これという答えを出すのは難しいですが、それでもひとつ提案してみるなら、コロナ以降「変化するもの」に焦点を当ててみることが取っ掛かりになるかと思います。

コロナの長期化により、息苦しさを超えて、経済だとか雇用だとか現実的な心配事が増えました。多くの分野で急速に非対面への転換が起こっていることで、私たちの生活にも密接に関わる変化が加速化しています。

そうなればなるほど、息苦しさから救ってくれるのも、日常を取り戻せるようにするのも「人間性」だと思います。

オンライン会議を可能にするのは技術ですが、究極的な目的は、顔を合わせてお互いの目を見ながら話すためですよね。

機械にはできないけれど、人間だけが自発的にできることがあります。疲れたときにちょっと休んで、自分自身を振り返り、補って、さらに前に進んでいくことです。そして、そのタイミングがいつなのかに気づけるのも人間だけです。

これまでやってきたことがコロナによってストップしたのなら、この機会に、ちょっと休みながら次の変化を模索する力を貯めることができるでしょう。

あきらめから来る休みではなく、積極的で能動的な休みになったらな、と思います。

――日本の読者に一言、メッセージをお願いします。

まずはお礼を言いたいです。初めて本を書き始めたときは、海外の読者にまで私の本が届くとは思ってもみませんでした。私の本を読んで、意味を見出してくださったすべての方々に、ただただ感謝しています。

私は文章を書いて絵を描くことで生計を立てているので、本を作ることは、見方によっては極めて個人的なことかもしれません。

にもかかわらず、多くの方が本を読んで慰められたというメッセージをくださったので、そうやって頂いた心をこれからも世の中にお返しし、貢献しながら生きていかなくてはと思います。

なにより最近は生存と健康を脅かされる時代ですから。免疫力が低下すると、コロナウイルスにも感染しやすくなります。体と心の健康はつながっているじゃないですか。

私の役目は、皆さんの心の健康に少しでも役立つ作品を作ることだと考えています。私もいつも気をつけながら、創作活動を続けていきます。

みなさんもそれぞれ自分の場所で、どうか安全に、元気でいてください。


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