最新記事
BOOKS

仕事は与えること、それで誰かが救われている──哲学を人生に生かすための1冊

2020年10月23日(金)07時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

そのため、自分も仕事で返していく心掛けが大切なのだ。人に与えることで、恩恵はめぐりめぐっている。

また、富増氏はマーケティングでも「与える」という行為が用いられることを紹介。

顧客に満足してもらうためには、顧客のニーズと提供する商品・サービスが一致することが必要になる。しかし、品質が同じであれば、顧客は価格の安いほうを選ぶだろう。そうなると、価格競争になり、デフレのスパイラルが止まらなくなる。

そこで有料の商品やサービスに、お金にならないサービスを追加するのだ。そこでは、報酬以上に見返りを期待しない奉仕が行われているというわけだ。

死がやってくるときに、われわれは存在しない(エピクロス派)

逆境や苦しい状況の中で、そこから切り抜けるために富増氏が薦めるのが、エピクロス派やストア派などのヘレニズム哲学だ。紀元前、アレキサンダー大王の世界帝国の出現により、ギリシアのポリス(都市)社会が崩壊し、人々が困惑する中で出現した哲学である。

例えば、誰もが乗り越えることが難しいものに「死の恐怖」がある。

快楽主義で知られるエピクロス派の始祖、エピクロス(紀元前341年~前270年)は、「死の恐怖」について、デモクリトスのアトム論(原子論)を用いて説く。快楽主義とは、「体に苦痛がないこと」「心が穏やかなこと」という状態のことである。

体も魂も原子(アトム)で出来ている。死んでしまえば感覚はない。そして、いま生きているということは、死んでいないということである。死は死んでから考えればいい。でも、死んだら考えられない。だから、それで解決、というわけだ。

つまり、「われわれが存在しているときには死はやってこないし、死がやってくるときにはわれわれは存在しない」ということになる。

しかし、それでも人は死が怖い。原子が解体したあとの「無」が怖い。そんな現実に対して、富増氏はさらに、ストア派の哲学を紹介する。

ストア派は禁欲主義による苦行を行う。苦しみを先取りし、鍛えることにより、快楽・苦痛に惑わされない境地をつくり上げるのだ。「ストア派」は「ストイック」という語の由来にもなっている。

ストア派の哲学者、ゼノン(紀元前335年~前263年)は、人間の本性は理性(ロゴス)にあるため、合理的な習慣・行動を身につけるべきだとする。そして、「自然に従って生きよ」と説いた。

自然に従って生きるとは、理性に従って生きることだ。人は情念(パドス)に動かされ、どうでもいいことを気にする。つまり、「死の恐怖」も情念に動かされなければいいのだ。これは「アパティア(無感動)」と呼ばれている。ただし、アパティアを目指すことは、きつい修行だろうと富増氏は言う。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中、通商分野で歩み寄り 301条調査と港湾使用料

ビジネス

テスラの10月中国販売台数、3年ぶり低水準 シャオ

ビジネス

米給与の伸び鈍化、労働への需要減による可能性 SF

ビジネス

英中銀、ステーブルコイン規制を緩和 短国への投資6
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中