最新記事

キャリア

STEAMとは何か 仕事を奪われる(?)AI時代を生き抜く教養

2018年3月16日(金)09時58分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ただ、AI時代に新たに求められるというartとは、果たして何だろうか。artの語義は、日本語でいう「芸術・美術」よりもはるかに広い。武道や格闘技は「martial arts」と呼ぶし、療法は「healing arts」、家政は「household arts」だ。

自然科学や数学、これらを応用した技術や工学といった、自然界の法則を発見し活用することが「STEM」だとすれば、artは人間が社会との関わりの中で模索しながら、自然界にはないものを創り上げていくものといえそうだ。

思えば、政治学、経済学、法学や歴史学などの文科系領域は、ほとんどがartに属する。すなわち「STEAM」とは、文系・理系といった枠組みの区別を意識せず、横断的に知識を習得し、新たな価値を創り上げていく姿勢だといえる。

AIを使いこなすための科学リテラシー

ところで、著者の伊藤氏は航空管制の世界にAIを導入する研究者だが、AIによる機械学習(ディープラーニング)を航空管制システムに組み込むことには懐疑的だという。

一般のエンジニア的な発想では、膨大なビッグデータをAIに読み込ませて、自動的に自己修正を繰り返すことで、理想的な管制システムを創り上げられると考えがちだ。伊藤氏も管制システムの一部に機械学習を採り入れることは肯定しているが、「大事なのは、適用する問題を見誤らないことです」(227ページ)とも付け加えている。

テクノロジーを突き詰めてシステムを構築すると、むしろそのシステムを瓦解させかねない。科学の限界を見抜く力を伊藤氏は「科学リテラシー」と呼ぶ。科学はもともと世の中をできるだけ法則化し、未来を予測するための「サバイバル術」として発達したという。

日本で生まれ育った伊藤氏自身も、科学リテラシーを武器にさまざまな壁を乗り越えてきた。そのおかげで、オランダ航空宇宙研究所やNASAエイムズ研究所など、海外で科学者として活動できたのだと語る(現在は国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 電子航法研究所の主幹研究員)。

常識を疑い、目に見えない物事の本質を推測し、人間や社会に対する深い見識に裏付けられる科学リテラシーは、まさにartの領域だ。

アップル創業者のスティーブ・ジョブズが「カリグラフィー」を極めていたのはよく知られた話だ。カリグラフィーとは、アルファベット文字を美しく魅せるためのデザイン、いわば「西洋の書道」である。他方で彼は、東洋における「禅」の思想にも傾倒していた。ジョブズは「STEAM」のartに精通し、「STEM」で培われた高度なコンピューターを一般的な人々の感覚と結び付けることで、普及に貢献する役割を果たしたといえる。

AIが進化する以前から、この世に新たな価値をもたらし、社会に影響を与え、卓越した活躍をする人々は、文系・理系といった狭い枠組みを軽々と飛び越える横断的な知識を身につけていた。「AI時代」となった今、そうした人材がますます多方面で必要となってくる。そこで、さまざまな集団や個人をまとめる共通言語(=教養)としての「STEAM」が重要になるというわけだ。

人間独自の「art」要素を多分に持ち、時代に合った正しい科学リテラシーを身につけた者だけが、AIに生活や人格をむしばまれることなく、むしろAIを便利な道具として有効活用できる。

本書は人間にとって底知れぬ潜在能力を秘めたAIを、適度に恐れつつ、適切に活用するための科学リテラシーを身につけるきっかけとして、最適な入門書である。


『みんなでつくるAI時代
 ――これからの教養としての「STEAM」』
 伊藤恵理
 CCCメディアハウス

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、2月1.9%に加速 食品とサー

ビジネス

中東紛争でインフレ加速も、世界経済への打撃は軽微=

ワールド

〔アングル〕中東情勢が安保3文書改定に影響も、米軍

ワールド

IAEA、イラン・ナタンズ核施設の入口損傷と確認
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 7
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中