最新記事
ビジネス

自動車とジェネリック医薬品、両業界に共通する「成功を手助けする黒子」の存在

2024年10月11日(金)15時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

他メーカーを徹底的に分解したトヨタ

たとえば、自動車業界では、何十年も前からリバース・エンジニアリング(隠れた仕組みを見出して逆設計を行うこと)が重要な役割を果たしてきた。1933年、豊田喜一郎は新型シボレーを分解した結果から、織機製造から手を広げて自動車開発部門を設立すべきだと一族を説得した。

3年後、喜一郎一族の会社「豊田自動織機製作所」は第一号の車を発売し、自動車開発部門をトヨタと改名して独立させた。一族の姓「豊田」を8画(日本におけるラッキーナンバー)で書けるように、カタカナで表記した名前だ。

それから1世紀近くたつ頃には、豊田喜一郎のかつての型破りなアプローチが、自動車メーカーの標準的な開発手順の一部になっていた。今日、自動車メーカーは日常的にライバル社の車すべてを分解している。ただ、彼らはこのプロセスをリバース・エンジニアリングとは呼ばず、「競合ベンチマーキング」と呼んでいる。

エンジニアたちが競合他社の車に飛びつき、手際よく部品を1つずつバラバラにしていく。そして技術的な進歩、想定されるコスト削減幅、他の自動車メーカーの戦略的方向性に関してわかったことを記録していく。

自動車業界について特に注目したいのは、主要メーカーがすべて競合他社の製品をリバース・エンジニアリングしているということでもなければ、そのことを公言してはばからないということでもない。

同業界の特筆すべき点は、近年、自動車メーカーが集団で競合他社の知的財産を共有しはじめたということだ。時には、その情報の中に自社の製品に関する機密情報が含まれる場合もある。

この動きには「A2MAC1」という明敏なフランス企業の取り組みが貢献している。熱烈なカーマニア兄弟によって1997年に設立されたA2MAC1は、専門的に車を分解し、そのレポートをサブスクリプション・サービスで販売している。

ネットフリックスのような彼らのデータベースには、600を超える車の「分解結果」と、各部品の重量から形状、ボルト1本1本のメーカーに至るまで、全部品の詳細な分析結果が収められている。

A2MAC1のサブスクリプション・サービスでは、分解した部品を現物検査のために借り出すことも可能で、最近は「VRグラス」を用いて顧客が遠隔で部品を見られるように、部品のスキャニングまで行っている。

この20年のあいだに、なぜ自動車の信頼性がこれほど高まったのか、あなたも疑問に思ったことがあるだろう。その一部には、A2MAC1が貢献しているかもしれない。


リバース思考 超一流に学ぶ「成功を逆算」する方法
リバース思考 超一流に学ぶ「成功を逆算」する方法
 ロン・フリードマン 著
 南沢篤花 翻訳

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

Ron Friedman(ロン・フリードマン)
受賞歴のある社会心理学者。ロチェスター大学、ナザレス大学、ホバート・アンド・ウィリアムス・スミス・カレッジの教授を歴任し、政治指導者や非営利団体、世界的に有名なブランドの多くにコンサルティングを行ってきた実績を持つ。研究に関する人気記事は、NPRやニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ボストン・グローブ、ガーディアンなど有力紙のほか、ハーバード・ビジネス・レビュー、サイコロジー・トゥディなどの雑誌でも紹介されている。専門家がより健康で幸せで生産的に働くために、神経科学や人体生理学、行動経済学の研究を実践的な戦略に活用する学習開発会社「イグナイト80」の創設者でもある。デビュー作『最高の仕事ができる幸せな職場』(日経BP)は、Inc.誌の年間ベスト・ビジネス書に選出された。

ニューズウィーク日本版 日本人と参政党
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月21日号(10月15日発売)は「日本人と参政党」特集。怒れる日本が生んだ参政党現象の源泉にルポで迫る。[PLUS]神谷宗幣インタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中