最新記事

日本社会

子供たちが登下校に限らず危険な「地方の限界分譲地」 駅チカより地価が10倍以上の人気エリアとは

2023年2月10日(金)11時30分
吉川祐介(ブロガー) *PRESIDENT Onlineからの転載

近年では、売主個人が発信できるウェブサイトで分譲地が売りに出されている。その中には、長年所有していたが、若い世代の方のために格安でお譲りしたい、と書かれたものもあった。だが、実際にはその売地は格安でもなければ、若い世代が欲しがる立地でもなかったりする。

こうした浮世離れした売地の広告を見るたびに、筆者はやりきれない思いに囚われてしまう。限界分譲地の地主の方々も、別に悪意を持って不当に高い価格で金銭を巻き上げようと企んでいるわけでもなく、おそらく葛藤や妥協の末に価格を決めたのだろう。

しかし、都市部と限界分譲地の地価は、もはやそんなギャップをカバーできないほど差が開いている。地主の多くが「安値」と考える価格の多くは、実は安値でも何でもない。条件の悪い土地は、価格がつくかどうかすら怪しい。

このどうにもならない認識の断絶こそまさに、旧分譲地の流通や再利用、集約化を阻んでいるのだと思う。

絶望的な供給過剰が続いている

限界分譲地には、すでに地主が売却を諦めているのか、草刈りなどの管理が一切なされず、売り物件として市場に出ない放棄区画も数多い。その是非は別として、土地の資産価値に対する認識としては、むしろ諦めて放置する地主の方が、ある意味では事態を冷静かつ的確に捉えているのではないかという気もしてくる。

住宅用地としての需要がすでに完全に失われているとなれば、残るは菜園用地や物置といった住宅の補助施設の用途や、別荘といった完全に道楽用途しかない。いずれも生活上必ずしも必要になるものとはいえず、大きな需要を呼び起こせるものではない。

成田空港周辺では数千区画におよぶ売地が今も市場に放出されている。これはもう絶望的なまでの過剰供給なのである。その現状を、未だに理解していない地主が多い。

個人が自分の資金で購入した私有地なのだから、あまり他者がとやかく口を挟む話でもないのかもしれないが、今後も誰も買わない価格で売りに出し続けても意味がない。売り手にとっても地域社会にとっても、もはや事態は何も改善しない以上、いつまでも自己責任の話として蓋をしていられる状況ではなくなっている。

吉川祐介

ブロガー
1981年静岡市生まれ。千葉県横芝光町在住。「URBANSPRAWL -限界ニュータウン探訪記-」管理人。「楽待不動産投資新聞」にコラムを連載中。9月に初の著書『限界ニュータウン 荒廃する超郊外分譲地』(太郎次郎社エディタス)を出版。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中