最新記事

日本社会

子供たちが登下校に限らず危険な「地方の限界分譲地」 駅チカより地価が10倍以上の人気エリアとは

2023年2月10日(金)11時30分
吉川祐介(ブロガー) *PRESIDENT Onlineからの転載

筆者が暮らしている千葉県の横芝光町もその典型だ。近年、学校の統廃合が続いている同町においては、鉄道駅の総武本線横芝駅周辺よりも、駅から徒歩30分以上掛かるような小学校周辺の宅地のほうが高いことがある。

その宅地の周囲には商業施設もなく見渡す限り田畑ばかりで、一見しただけでは地価が上昇するようなエリアにはとても見えない。だが、学校が近く、現代の需要に適合した造成が行われているというこの2点によって、坪単価は町内の他地域と比較して、最大で10倍以上の価格になっている。

筆者のように子供のいない世帯から見ると、その価格差には戸惑うしかないのだが、裏を返せば、新築用地を求める子育て世代にとって少子化による地方の教育環境の縮小は、それだけ切実な問題なのだ。

狭くて、学校から遠い分譲地はタダ同然でも売れない

家余りが指摘される今の時代、なおも続く新築住宅の建築について「日本人の新築信仰」なる奇妙な言説がその原因として挙げられることがあるが、実際には、生活環境の急速な変化に不動産市場の変化が追いついておらず、立地条件と品質の両者を満たした中古住宅の供給が今なお不充分であることが最大の原因であろう。

その状況の中、そもそも現代の宅地需要が求める規格を満たしていないうえ、さらに近隣の小学校も閉校してしまっているような限界分譲地が、果たして新規の宅地として市場で太刀打ちできるのだろうか。

もちろん、子育て世代であるからと言ってすべての世帯が自宅を新築するわけでもなく、経済的な事情などから、中古住宅や貸家を選択する世帯もあるので、建物がある場合は必ずしも需要がないわけではない。しかし更地の場合は、もはや住宅地として再起する望みは完全に絶たれていると言っても過言ではない。

学校の統廃合による影響を受けているのは既存の農村集落も同様であるとは言え、農家は家業として農業を行うために、どうしてもその地に住まねばならない理由がある。長年その地に住み続けているため地域社会との繋がりも強く、分譲地の住民とは単純に比較できない。

一方で分譲地の更地というものは、他に無数に存在する「住宅予定地」という選択肢のひとつにすぎない。ところが地元の子育て世代で、70~80年代に開発された古くて狭い旧分譲地を、新築用地の選択肢に含めている人はまずいない。地元出身者にこれらの分譲地について尋ねても、皆口を揃えて一様に「狭すぎる」と語る。

古い限界分譲地は、もはや住宅用地としてみなされていないのだ。地元業者もそれがわかっているので、いくら価格が安くても、学校が遠い旧分譲地を大きくアピールして売り出すことはしない。

浮世離れした"売値"をつけたがる所有者の心理

住宅地の価格というものは、一概に駅や商業施設からの距離だけで簡単に算出できるものではなく、その街ごとに異なる事情が繊細に反映される。しかし、多くの限界分譲地の地主は遠い都市部の在住者で、ほとんどの場合、そうした地元の不動産市場についての知識をまったく持ち合わせていない。

今でも限界分譲地の空き地は大量に売りに出されている。

草刈りの業務を請け負う会社が広告を出していることもあれば、地元の仲介業者が広告を出していることもある。まれに、東京都内などの都市部の仲介業者が、得意客にどうしてもとせがまれたのか、手間賃にもならない手数料しか取れないような価格の売地広告を出していることもある。

だがそのほとんどが、地元の需要や相場価格を熟知して値付けされた価格であるとは言い難い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランスネフチ、ウクライナのドローン攻撃で石油減産

ワールド

ロシア産エネルギーの段階的撤廃の加速提案へ=フォン

ワールド

カーク氏射殺事件の容疑者を起訴、検察当局 死刑求刑

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで4年ぶり安値 FOM
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    出来栄えの軍配は? 確執噂のベッカム父子、SNSでの…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中