最新記事

エネルギー

ウクライナ情勢で石油増産ブームの北米に高い障壁 厳しい条件に人手集まらず

2022年5月9日(月)16時53分
米国のアパラチア盆地の石油採掘現場

米テキサス州の油田で働いていたジェレミー・デービスさん(38)は2020年、解雇された。17年間働き続けたエネルギー業界を離れることはなかったが、それ以降の職場では不幸な出来事に相次いで見舞われた。写真は米国のアパラチア盆地で2018年6月撮影(2022年 ロイター/Deep Well Services)

米テキサス州の油田で働いていたジェレミー・デービスさん(38)は2020年、解雇された。17年間働き続けたエネルギー業界を離れることはなかったが、それ以降の職場では不幸な出来事に相次いで見舞われた。

化学製品の生産工場ではシフト勤務に入って約1週間後に入院。その後、別の会社で全く給料が支払われず、5000ドルの持ち出しになった。

デービスさんは「先行きを予測できないことや安定(を欠いていること)にものすごく苛立つときがある」と言う。今はテキサス州オースティン郊外の自宅近くで建設業に従事している。デービスさんはエネルギー業界に戻るのも選択肢の1つだと話すが、当面は今の仕事を続けるつもりだ。

米国とカナダでは、デービスさんのように石油・ガス関連の仕事を離れた労働者が何千人もいる。耐え難い労働条件、辺ぴな職場、不十分な報酬などが理由で、世界がクリーンエネルギーに移行する中、再生可能エネルギー業界に転職した者もいる。

世界的な供給不足で原油相場が100ドル近辺で推移し、政府は石油・ガス生産会社に増産を求めている。ロシアウクライナ侵攻を受けてロシア産原油が市場に出回らなくなった影響を相殺する手法を探っているが、米国とカナダの石油・ガス企業は増産にとって労働力不足が足かせになっている。

新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)が始まって以降、大量の労働者が石油開発の職を去った。米国の失業率は足元で3.6%に改善し、パンデミック前を若干上回る低水準となっているが、石油・ガス業界の労働者の数はパンデミック前より約10万人少ないままだ。

カナダでは石油業界の雇用が急速に回復。各社が人材を確保しようと動き、労働者は福利厚生や賃金の交渉で強気の姿勢を打ち出せるようになった。

パターソンUTIエナジーのアンディ・ヘンドリクス最高経営責任者(CEO)は「サンアントニオなどで開く採用説明会は、コロナ禍前には200人程度の来場者が見込めたが、今は50ー100人程度だ」と述べた。同社は現在、米国内の掘削リグ695本のうち6分の1程度の稼働を担っている。

同社は昨年3000人を再雇用し、今年も3000人を追加採用する方針。人材を見つけるためノースダコタ州ウィリストンのショッピングモールにも採用担当者を配置している。

求む、人材

カナダのカルガリーを拠点とするペイト・イクスプロレーションズ・アンド・ディベロップメントのダレン・ジーCEOによると、同社は人材さえ確保できれば、油田の掘削を増やす方針だ。同社の石油・ガス生産量は石油換算で日量9万8000バレル。

ジー氏は「人材を獲得できれば多分、今年の設備投資予算を増額する」と述べたが、新規採用した労働者は経験不足の場合が多いとも指摘。石油・ガス業界が適材の新規獲得に苦労している一因として、カルガリー大学が石油・ガス工学の課程を停止した動きを挙げた。

米エネルギー関連サービス業界団体のエナジー・ワークフォース・アンド・テクノロジー・カウンシルによると、米国の油田サービス・掘削部門の雇用者数は3月に約60万9000人と2021年9月以降で最多だが、パンデミック前の約70万7000人を依然として下回っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル一時153円まで4円超下落、介入観測広がる 日

ワールド

再送米、民間人保護計画ないラファ侵攻支持できず 国

ビジネス

米財務省、中長期債の四半期入札規模を当面据え置き

ビジネス

FRB、バランスシート縮小ペース減速へ 国債月間最
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中