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ウクライナ情勢で石油増産ブームの北米に高い障壁 厳しい条件に人手集まらず

2022年5月9日(月)16時53分

ペンシルベニア州ゼリエノプルを拠点とする油田会社ディープ・ウェル・サービシズのマーク・マーモCEOは、テキサス州西部などでフラッキング(水圧破砕)作業が現在、2週間から1カ月程度遅れていると話す。「350人を採用した。さらに350人追加採用できれば、全員を作業に投入する」と言う。

米労働省統計局の推計によると、石油・ガス部門を含む鉱業・林業では今年1月に1万4000人が離職した。これは2020年序盤以降最多で、2月も約1万3000人が職場を去った。

エナジー・ワークフォース・アンド・テクノロジー・カウンシルのティム・タープレイ氏は「パーミアン盆地では100人を新規採用して6カ月後には8─9人しか残らない会社もある」と話す。

米国とカナダでの石油・ガス業界は、労働市場の需給逼迫にもかかわらず、生産が増える見通し。しかし業界幹部の話では、より多くの労働者を確保できれば生産が想定を超える可能性もある。

米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)によると、米国の生産量は今年、日量約80万バレル増えて平均で同1200万バレルとなるが、2019年に記録した過去最高の日量1230万バレルには届かない見通し。天然ガス液を含むカナダの生産は日量19万バレル増の日量575万バレルと予想されている。

アマゾンと競合

カナダ・アルバータ州の業界団体、ビルディング・トレーズ・オブ・アルバータのエグゼクティブディレクター、テリー・パーカー氏の話では、カナダ辺境のオイルサンド生産地区では、生産設備の重要な保守のため何千人もの労働者が必要な時期に、現場に出向くのをいとわない熟練労働者が減っている。会社側がもはや、こうした不便を強いられる出張に割り増し手当を払っていないためだ。

パーカー氏によると、オイルサンド業界の時給は、熟練度が低い場合で30カナダドル(約3000円)、高い場合で50カナダドル。

カナダ統計局のデータによると、鉱業と採石業、石油・ガス掘削業の残業代を含む週間平均賃金は2020年2月以降に7.3%増えた。

油田コンサルタント会社スピアーズ・アンド・アソシエイツによると、米国における生産・非管理職従業員の平均時給は現在、1年前より約5%高く、油田労働者の賃金は年間で約10%増える見込みだ。

だが米労働省統計局によると、石油・ガス掘削部門の平均時給は今年2月時点で45.45ドルと、パンデミック前の20年2月時点の48.37ドルを大きく下回っている。

パターソンUTIエナジーのヘンドリクス氏によると、同社は昨年、歴史的には石油業界より賃金が低い小売業界と競争するため賃金を引き上げた。

「運転手を採用しているアマゾンや、冷房完備の倉庫での人員を募集しているターゲットと競合している。夏場にテキサス州西部の掘削リグで働くよりも楽な仕事だ」と語った。

(Liz Hampton記者、Stephanie Kelly記者、Nia Williams記者)

[ロイター]


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