10年赤字の老舗和菓子屋を変えた6代目は元ギャル女将 「溶けない葛粉アイス」など映える新作で起こした奇跡

「五穀祭菓をかの」の外観

「五穀祭菓をかの」の外観 撮影=筆者

ギャルになって派手に振る舞う...笑顔の裏に隠された劣等感

榊は1995年、「をかの」5代目の父と母の元に生まれた。本店は桶川駅前の商店街にあり、商店街を遊び場にして育った。

「サングラスかけながら、三輪車でパン屋さんに行って、また来たの? 飴ちゃん舐める? って。八百屋さんに行ったら、お使い来たの? りんご持って帰りなって。うちのお店で働いている人たちも含めて、みんなに育ててもらいました」

明るく、朗らかな榊は、子どもの頃から大勢の友だちに囲まれていた。しかし、その笑顔の裏側には切ない劣等感も隠されていた。

「10歳年上のお姉ちゃんは中学校にファンクラブがあったくらい綺麗だし、委員会の代表をしたり、目立つ存在でした。でも、私はなにをするにも人より劣っていて、勉強もできなかったし運動神経も良くなかった。自分が人より秀でてる部分は友だちがたくさんいることだけで、そこで認められるしかないと思っていたから、嫌われないようにすごく必死でしたね」

「ギャル」だったころの榊さん中学に入ると、メイクをするようになった。父親から「なに考えてんだ!」と叱られ、メイク道具を一式捨てられたこともあるが、それでもやめなかった。高校生になる頃には、バッチリメイクでミニスカートのギャルになっていた。もちろん、女の子としてかわいらしくなりたいという想いはあったが、それだけではなかった。

思春期に入ると、友だちに嫌われることをさらに恐れるようになり、自己主張できなくなっていた。それでおとなしい見た目をしていたら、いじめられるかもしれないという危機感があった。ギャルになって派手に振る舞うのは、自分を守るための武装でもあったのだ。

根はマジメなので、テスト前には「赤点は取らないようにしよう」とこっそり勉強した。高校3年生になって進路を意識し始めると、「ちゃんと人の役に立てる大人になりたい。好きなことで誰かの役に立てるって素敵だな」と考えた。

学校で国語の授業を受けていた時、ふと「国語は得意だし、高校の国語の先生になろう!」と思い立ち、大学に進学した。

両親の店を継いだ"あるきっかけ"

大学に入って想定外だったのは、同級生にギャルがひとりも見当たらなかったこと。周囲と話が合わず、明らかに浮いてしまった。そのうえ、授業についていけず、大学2年生になって小学校でインターンを始めた時、心が折れた。

「当時の私は見た目が派手だったから、担当の先生からすごく嫌われちゃって。嫌われたくないと思って焦るとミスるじゃないですか。それで空回りして、めちゃくちゃ怒られて。私は子どもを伸び伸び育てるような先生になりたかったけど、その前に職員室での人間関係が怖いし、先生に向いてなかったと思って、諦めました」

目標を失った榊は、ほとんど大学に行かなくなった。この頃、母親が病に倒れ、入院する。ある日、病院に見舞いに行くと、病室で両親がなにやら深刻な様子で話しているのが聞こえた。ただならぬ様子に、榊は足を止めた。ふたりは、「これからお店をどうするか」を話し合っていた。

父親と一緒に「をかの」を支えてきた母親が初めて不在になり、その存在の大きさが明らかになったのだろう。「もし店を潰すなら、これからどうするのか考えなきゃな」という父親の言葉を耳にして、動揺した。

「お店がなくなるとしたら寂しい。でも、私は気が弱くて人の後をついて行くタイプだから、継ぐのは絶対無理。どうしよう......」

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