EVシフトの盲点とは? トヨタが「水素車」に固執するこれだけの訳

2021年6月11日(金)15時55分
前田 雄大 *PRESIDENT Onlineからの転載

たしかに燃費の良いハイブリッド車が世界で売れているのも事実だ。トヨタの見立てはあながち間違ってはいない。しかし、EV化が世界の一大潮流になった今、なぜトヨタは"水素"に固執しているのか。それは、ハイブリッドで他の追随は許さないポジションを取ったトヨタの、次の一手への布石というべきものだと言える。

ハイブリッド車は、ガソリンで駆動するエンジンに加え、モーター、バッテリーおよびパワーコントロールユニットを組み合わせたものだ。走行中に発電した電気をバッテリーに貯め、バッテリーの残量を使ってモーター駆動でも走る。

president210611_toyota1.jpg

(出典:トヨタホームページより)

図表のとおり、エンジンを排して充電器を付ければEVになる。しかしトヨタはEVをHVの次の選択として選ばなかった。蓄電池は高価であり、コストがかかった。長い充電時間の割に航続距離が短いという欠点もあった。そこでたどり着いたのが、水素であった。

水素に張ったトヨタは予想を外したのか

この図表のとおり、ハイブリッド車のエンジンを燃料電池(水素を燃料に発電する装置)に置き換え、ガソリンタンクの代わりに高圧水素タンクを搭載した。それが燃料自動車(FCV)だ。自社が磨き上げたコアとなる電動化技術を生かす形で、トヨタは20年以上の研究開発を経て、2014年に初の量産型FCV「MIRAI」につながった。

しかしその後、脱炭素化の流れは一気に進んだ。エネルギーを貯蔵する役割としての蓄電池の役割がより重要となり、性能がこの数年で急速に向上し、価格も下がった。

課題とされていたEVの航続距離、充電時間、コストは、テスラ社がブレークスルーを見せ、航続距離は米国の環境保護局(EPA)基準で400キロ以上を確保。充電も独自の急速充電で30分強と大幅に短縮させた。価格はより安価になり、EVが競争力を持ち始めた。

こうした世界の動きを見ると、蓄電池を搭載するEVに軍配が上がり、水素に張ったトヨタは予想を外したと見る向きも少なからずある。

この主張は、一定程度、正しい。

たしかに水素は扱いが難しい気体であり、まだ輸送も商業的に十分に確立したとは言えない。また、エネルギー効率の悪さというデメリットもある。ただ、後者については、水素は地球上で最も豊富な元素であり、再生可能エネルギーと水があれば、使う場所で生産することができ、デメリットは相殺できる。

問題はコストと供給網不足、この2点だ。

高コストと供給網不足という大問題

水素は、再エネ由来のグリーン水素、化石燃料由来のブラウン水素、ブラウン水素の製造過程でCO2を回収してCO2フリーとしたブルー水素などがある。最も低コストのブラウン水素でもガソリンに比べて高く、日本政府が掲げる目標の4倍以上の価格だ。

商業ベースに乗るにはかなり道のりがある。EVの電費が、ガソリン車の燃費よりも経済性があるのとは対照的だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中、通商分野で歩み寄り 301条調査と港湾使用料

ビジネス

テスラの10月中国販売台数、3年ぶり低水準 シャオ

ビジネス

米給与の伸び鈍化、労働への需要減による可能性 SF

ビジネス

英中銀、ステーブルコイン規制を緩和 短国への投資6
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中