最新記事

環境

テスラ、総工費7700億円超を投じたドイツ「ギガファクトリー」の迷走

2021年6月28日(月)13時01分
テスラが独グリューンハイデに建設中のギガファクトリー

7月1日は、電気自動車メーカーのテスラにとって祝うべき日になるはずだった。ドイツの首都ベルリン近郊の落ち着いた街グリューンハイデに、自称「ギガファクトリー」が誕生する予定だったのだ。写真は2020年9月、ギガファクトリーの建設現場をドローンから撮影。提供写真(2021年 ロイター/Hannibal Hanschke)

7月1日は、電気自動車メーカーのテスラにとって祝うべき日になるはずだった。ドイツの首都ベルリン近郊の落ち着いた街グリューンハイデに、自称「ギガファクトリー」が誕生する予定だったのだ。

だが、環境保護団体からの激しい抵抗や煩雑な行政手続き、計画変更により、同社初の欧州工場の製造ラインから最初の完成車が送り出される日がいつになるのか、まったく不透明な状況だ。

テスラはすでに操業開始予定を2021年後半に先送りしている。だが、現地ブランデンブルク州の農業・環境省は、総工費58億ユーロ(69億ドル)の新工場に対して、まだ最終的な承認を与えていない。こうなると、下手をすれば2022年まで操業開始がずれ込む可能性も排除できなくなる。

何が問題なのか?

状況は込み入っている。

大富豪イーロン・マスク氏率いるテスラが「ギガファクトリー」の建設計画を発表したのは、2019年末だ。

だが建設予定地の一部は飲料水源の保護地域に重なり、自然保護区とも接しているため、地元住民や環境保護団体から激しい反対にあっている。

昨年はドイツ自然保護連盟(NABU)が、森林伐採によりヘビの稀少な在来種の冬眠が妨げられるリスクを指摘。これを受けて、テスラは伐採を一時中止せざるを得なかった。

このヘビが救出されたことでテスラはようやく伐採を再開することができたが、環境保護を理由として現場での作業を阻止する試みは、他にも数多く見られる。

建設現場から約9キロの場所で暮らすマヌエラ・ホイヤー氏は、地元での建設反対運動に参加する1人として「工場に必要なインフラや(従業員の)住宅を建設するために、数千ヘクタールもの森林が伐採されることになる」と語る。「飲料水源保護地域にこうした工場を建てることは、まさに環境に対する犯罪だ」

ホイヤー氏のコメントからも分かるように、ウィンドファーム(集合型風力発電所)など再生可能エネルギー関連プロジェクトはドイツ全土で、地元の生態系への影響を心配する住民からの反発を受けている。

反対運動だけが問題なのか?

そうとも言えない。

テスラにとっては、煩雑な行政手続きも頭痛の種だ。テスラの実践主義的なアプローチとドイツの悪名高い官僚主義は、相性が悪い。

これまでテスラは暫定的な建設許可に基づき、4340万ユーロで購入した約300ヘクタールの土地に、工場として用いる広大な建物・構造物をすでに建築している。

だが、ブランデンブルク州農業・環境省からの最終許可が下りなければ、操業を開始することはできない。

同省は以前、最終許可の時期は明らかにできないと述べているが、これまで同州で暫定許可を得たプロジェクトは、いずれも結局は最終許可を得ている。

それでも環境保護団体は、操業開始の阻止を諦めようとはしていない。

先週、現地の環境保護団体グリューネリーガとNABUは「ギガファクトリー」用地に関する暫定建設許可の撤回に向けて、国内裁判所に差止命令を求める訴えを起こした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中