最新記事

ルポ五輪延期

東京五輪「コロナ延期で莫大な経済損失」は本当なのか

OLYMPIC DREAM STILL ALIVE

2020年4月8日(水)18時40分
藤代宏一(第一生命経済研究所 主任エコノミスト)

そしてもう1つ重要な視点は、これらの設備はオリンピックが予定どおり開催されなかったとしても、直ちに「負の遺産」になるわけではないということだ。例えば、新国立競技場については、旧競技場が1964年の東京五輪終了後も長期にわたり使用され、十分に投下資本を回収できたのと同様、その後の活用が期待される。また選手村は民間住宅としての売却など出口戦略があらかじめ練られている。従って、長い目で見れば、この5000億円を損失として取り扱う必要はない。

次に間接的な建設関連投資について見ていく。先のペーパーに基づき内訳を見ると、高輪ゲートウェイ駅の開発、日本橋・銀座や渋谷・新宿・池袋の再開発といった「再開発案件」が4兆円、首都高の整備など「交通」が2兆円、そして民間ホテル建築など「宿泊」が8000億円などとなっている。

これらのプロジェクトは五輪の経済効果に少なくとも一部関連していることは事実だ。しかしオリンピックがなかったとしても実行に移されていた可能性も高い。従って、仮に大会が中止・延期されたとしても、これらの計画に投じた額を経済損失として認識する必要はないのだ。

開催年がピークという先入観

そして、「そもそも論」ではあるが、オリンピックに伴う建設関連投資の発現時期を考える必要がある。五輪関連プロジェクトは開催に間に合うように計画されるため、通常は開催の2年前頃に景気刺激効果のピークが到来する。新国立競技場をはじめとする各種プロジェクトが竣工していることからも明らかなように、20年3月の段階で既に五輪関連の建設投資がもたらす刺激効果の大部分を日本経済は享受している。

開催年に経済効果がピークに達すると考えている人が多い印象だが、実のところ20年に残されていた部分は思いのほか少ない。実際、政府や日銀、民間の19~20年の経済成長率予想は延期の決定前から五輪の景気刺激効果の減衰を前提としていた。

次に②の観光関連であるが、20年に期待される観光需要はそもそも大きくない。そう聞くと「大勢の観戦客が来なくなるのに損失が出ないはずはない!」との声が聞こえてきそうだが、それは開催期間中における東京の活況という「木」を強く意識するあまり、日本全体という「森」の訪日観光需要を軽視してしまっている。報道などから「オリンピック=訪日客急増」といったイメージを抱く読者も多いと推察するが、過去の開催国データは意外にも大会期間中にその国を訪れる人は増加せず、むしろ減少傾向すらあることを示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツの財務相と中銀総裁、メルツ首相の単一欧州証取

ビジネス

物価目標はおおむね達成、追加利上げへ「機熟した」=

ビジネス

ユーロ圏、底堅いが再生へ断固とした政策転換必要=フ

ビジネス

仏ケリング、美容品事業をロレアルに46.6億ドルで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中