最新記事

日本経済

株価急落で消えた「日本売りの円安」 円暴騰の舞台裏

2020年3月10日(火)16時00分

リスクオフの円高に疑念が生じたもうひとつの要因は、円調達のキャリートレードが下火となったことにある。低金利通貨を調達して高金利通貨で運用し、金利収入を狙うキャリートレードを、円と同じくマイナス金利が長期化するユーロで行う動きが海外勢の間で始まったのだ。

そもそも、世界経済の成長を損なうようなニュースが出ると円高になるのは、グローバル投資家が持ち高を圧縮してリスク量を絞り込む過程で、キャリートレードの手じまいで円を買い戻す動きが相次ぐためとされる。つまり、キャリートレードに伴う売りが出ないのなら、買い戻す必要も当然なくなり、それに追走する投機的な円買いの機運も低下する。

実際、ユーロは2月下旬にほぼ3年ぶり安値となる1.07ドル台へ下落した後、世界的な株安が加速すると、買い戻しが一気に活発化。前日海外で1.14ドル台と、2週間半で700ポイント超の上昇を見せた。イタリア全土に移動制限がかかり、欧州の国債や銀行債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が急上昇していることなど、お構いなしだ。

「買われるうちが華」

少なくない参加者が「リスク回避の円高」終焉の可能性に賭けていた様子もうかがえる。米商品先物取引委員会(CFTC)がまとめたIMM通貨先物の非商業(投機)部門の取組状況によると、2月25日までの1週間に円は、差し引き5万枚超へ売り越し幅を拡大。日経平均が4カ月ぶり安値を更新する中、円売りポジションは昨年半ば以来の高水準へ膨らんでいたのだ。

しかし、こうした「円相場の構造変化の可能性」をにらんだ円売りは、株安が加速する中で次第に失速。強制的な買い戻しを執行する大量のストップロス注文は、たった1日で円が4円超上昇する土壌を作り、今回はリスク回避が円高につながるセオリーを確認する結果となった。

ドルは前日の海外市場で101.18円と3年半ぶり安値を更新した後、きょうにかけて104円台へ反発した。日銀がレートチェックに動いたとのうわさが出回ったことなどをきっかけに買い戻しが強まった形だが、日本売りの円安が一時現実味を帯びた市場では、相変わらず通貨高を嫌う当局の姿勢に「買われるうちが華なのに」(外銀幹部)と、冷めた声もこぼれる。

新型ウイルスの急拡大という未曽有の事態が、世界経済に与える影響は依然未知数。円相場も見通しづらいが「当面は100円割れを含めて下値警戒を続けたい。5日移動平均線が走る104.70円前後の回復が底入れの最低条件」(シティグループ証券チーフFXストラテジストの高島修氏)になるという。

(編集:石田仁志)

基太村真司

[東京 10日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・WHO「新型コロナウイルス、パンデミックの脅威に現実味 なお制御可能」
・スペイン、新型コロナウイルス感染者999人に急増 政府が近く支援策発表へ
・韓国、8日の新型コロナウイルス感染は過去10日で最低に 文在寅「安定局面に入る可能性」


20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症 vs 人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:高級品業界が頼る中東富裕層、地政学リスク

ワールド

トランプ氏、イラン制裁解除計画を撤回 必要なら再爆

ワールド

トランプ氏、金利1%に引き下げ希望 「パウエル議長

ワールド

トランプ氏「北朝鮮問題は解決可能」、金正恩氏と良好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 5
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中