最新記事

環境

コトラー流「環境問題解決のための」ソーシャル・マーケティング手法とは?

2019年11月28日(木)16時30分
松野 弘(経営学者、現代社会総合研究所所長)

写真は本文と関係ありません Placebo365-iStock.

<現代マーケティングの大家コトラーは今、マーケティングによる環境問題の解決を訴えている。新著『コトラーのソーシャル・マーケティング――地球環境を守るために』で示された、その方法とは......>

環境保護とソーシャル・マーケティングの視点

前編「マーケティングが環境問題の解決に向かうまで」で解説したフィリップ・コトラーによるソーシャル・マーケティング概念を基本として、コミュニティにおける社会的課題を解決するためのソーシャル・マーケティング手法を適用したのが、ダグ・マッケンジー=モーア(Doug McKenzie-Mohr)の「コミュニティ基点型のソーシャル・マーケティング」(Community-Based Social Marketing: CBSM)である。

マッケンジー=モーアは、コトラーと共著で『コトラーのソーシャル・マーケティング ――地球環境を守るために』(拙監訳、ミネルヴァ書房)を刊行している。

同書は基本的には、コトラーのソーシャル・マーケティング概念である、「ソーシャル・マーケティングとは、人々の考え方や習慣を変革するプログラムを企画し、管理するためのマネジメント技術である」(Kotler et al., 1995)や、「ソーシャル・マーケティングは、ターゲットと同様に、社会(公衆衛生、安全、環境、そして、コミュニティ)に便益をもたらすターゲットの行動に対して影響を与えるために、価値を創造し、伝達し、提供させるというマーケティングの原理、および、手法を適用させるプロセスである」(Kotler et al., 2009)をベースにしている。

その上で、今日の重要な社会的課題である「環境問題」の解決方策について、コミュニティ活動を基点とした実践的事例の中で提示したものである。

深刻化・多角化しつつある環境問題の解決には、「賢明な消費と廃棄物管理」(smart consumption and waste management)を基本指針として、「『ソーシャル・マーケティング・プログラム』の実施によって、環境保護を推進していくための行動へと行政・企業・一般市民を変革させるための手段と方法が必要であること」をコトラーは説いている(日本語版への序文)。

「コミュニティ基点型のソーシャル・マーケティング」の可能性

同書の主眼は、基本的には、マッケンジー=モーアの提唱している「コミュニティ基点型のソーシャル・マーケティング」(Community-Based Social Marketing: CBSM)手法を用いて、家庭部門と商業部門における6つの課題、すなわち、

(1)廃棄物の削減
(2)水質保全
(3)有害排出ガスの削減
(4)水使用料の削減
(5)エネルギー使用量の削減
(6)魚類と野生生物の生息環境の保護

における環境負荷を減少させるべく、環境保護や環境保全の観点から営利組織(企業)・非営利組織(NPO/NGO等)・一般市民(消費者)の価値観や行動を変革させることにある。

アメリカをはじめとした先進国(他に、イギリス、西ヨーロッパ、カナダ、オランダ、アイルランド)や開発途上国(ヨルダン、ベトナム)におけるグローバルな事例の分析・考察・評価を行っているところが、同書の大きな特長である(同書はしがき)。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

独ZEW景気期待指数、5月はプラス転換 予想も上回

ビジネス

ホンダ社長、日産との統合協議再開「当分もうない」

ビジネス

世界経済の不確実性、貿易戦争終結でも続く=アイルラ

ワールド

パキスタン、インドの攻撃で約50人死亡と発表 40
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 9
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 10
    ハーネスがお尻に...ジップラインで思い出を残そうと…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 8
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 9
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中