最新記事

訪日外国人

インバウンド消費拡大のカギを握るMICEとは

2019年8月6日(火)11時10分
藤原 光汰(ニッセイ基礎研究所)

2──消費額の大きいMICE

一人当たりの消費額を引き上げる方策として、MICEに重点を置くことが挙げられる。MICEとは、Meeting(企業等の会議)、Incentive travel(報奨・研修旅行)、Convention(国際会議)、Exhibition(展示会・見本市)の頭文字をとった造語であり、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称をいう2。MICEの特徴として、訪日外国人数の増加や関連産業間のシナジーによる経済波及効果の大きさなどを挙げることができるが、注目したいのはMICE関連で日本を訪れる外国人の一人当たりの消費額の大きさである。2018年のMICE国際競争力強化委員会(観光庁)において公表された「我が国のMICE国際競争力の強化に向けて(提言)」によると、2016年のMICE関連の訪日外国人消費額は1,500億円と示されている。また、同じく観光庁の「2017年MICEの経済波及効果算出等事業」によると、2016年のMICEによる訪日外国人数は57万人と推計されている。ここから、MICE関連の訪日外国人の一人当たりの消費額は26.3万円と導かれ、これは全体の訪日外国人の一人当たりの消費額より7割高い水準である。

nissei190802_3.jpg

2016年の実績をもとにすると、全体のうちMICE関連の訪日外国人の割合は2.4%、訪日外国人消費額は4.1%であった(図表3)。MICE関連の訪日外国人の割合が増加すれば、全体の訪日外国人一人当たりの消費額の平均が引き上がり、訪日外国人消費額の政府目標に対して迫ることができる。

日本においてMICEの注目度が高まってからまだ歴史は浅いが、1970年代からMICEを率先して国の重要分野と捉え、現在では世界有数のMICE開催拠点として知られるシンガポール3を例にとると、シンガポールを訪れる外国人のうちMICEへの参加を目的とした外国人の割合は2015年から2017年の平均で5.7%となっている4。同じアジアの国として、日本でも積極的なMICEの誘致を行うことにより、シンガポールと同水準までMICE関連の訪日外国人の割合を引き上げることができるはずである。これが実現した場合、2016年の実績をもとにすると、MICEは訪日外国人消費額の1割弱を占める分野となる。

3──今後のMICEへの期待

2020年のオリンピック終了後には観光目的の訪日外国人数が頭打ちとなることが考えられる。今後も訪日外国人数の伸び率を維持するためには、ビジネス目的での訪日外国人の呼び込みが必要となることが想定される。したがって訪日外国人数の維持という観点からも、今後はより一層MICEの重要度が高まるだろう。

――――――――
2 観光庁HPより引用
3 杉本興運「シンガポールにおける観光とMICEの発展」(2017年)
4 Singapore Tourism Board「Annual Report on Tourism Statistics」(2015~2017年)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「米国の和平案推し進める用意」、 欧

ビジネス

米CB消費者信頼感、11月は88.7に低下 雇用や

ワールド

ウクライナ首都に無人機・ミサイル攻撃、7人死亡 エ

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中