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日本の観光地、なぜこれほど「残念」なのか 優先すべきは情報発信より中身の「整備」

2019年5月30日(木)18時40分
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長) *東洋経済オンラインからの転載

人口が増えていた時代の旅行のほとんどは国内旅行でした。そのため、滞在日数も短く、ゴールデンウィークや夏休みなどの特定の期間にお客さんが集中する一方、それ以外の季節はあまり人が集まらず、閑散期の長い非効率な業界でもありました。

一方、繁忙期には黙っていてもお客さんが集まります。この2つの要因によって、当時は個々の観光資源に付加価値をつけるというインセンティブが働かず、観光地としての整備レベルが相対的に低いまま放置されていました。当然、お客さんの満足度も決して高くはなかったはずですが、それすら「当たり前のこと」として見逃されていました。

要するに、単価が低くても、数の原理で売り上げを増やせばいいというビジネスモデルだったと言えます。厳しい言い方をすれば「安易な稼ぎ方」でした。

単価が低いから満足度も低くていいというのは、人口が増えているときには通用するロジックだったかもしれませんが、人口が減り始めた今、そんなことは言っていられません。

実際、1990年台に入ってから若い人が増加しなくなった途端、日本各地の観光地では観光客がどんどん減っていきました。しかし、そもそも利益水準ギリギリで運営していたので、時代に合わせてビジネスモデルを変更するための設備投資をする余裕もありません。

ビジネスモデルを時代に合わせられないのですから、必然的に衰退の一途をたどるというのが、日本国内の多くの観光地が陥った悪循環です。時代の変化によって、ビジネスモデルが崩壊してしまったのです。この状態は、まさに、生産性の低い業界や会社が陥る典型的な「負のスパイラル」です。

私は、本業である小西美術工藝社の仕事の関係や、各種の会議や視察でさまざまな場所を訪問する機会が多くあります。そのたびに、先ほど説明したような疲弊のプロセスを、日本各地で嫌というほど目にしてきました。ですので、自信を持って言えますが、このような悪循環に陥ってしまったのは、一部の観光地に限った話ではないのです。

「観光施策=情報発信」という勘違い

国内を中心とした、「整備より、とりあえず多くの人に来てもらえばいい」というモデルからすると、当然、「観光施策=情報発信」が観光戦略の基本となります。なぜ観光収入8兆円の達成が難しいのか、その理由の根っこには、いまだに日本に根付いている、この「観光施策=情報発信」という昭和時代のマインドがあります。

事実、多くの観光地では現在、外国に対して「とりあえず情報発信すればいい」という観光施策を実施しています。

誰も見ていないホームページの開設や観光動画の掲載、誰もフォローしていないFacebookでの情報発信、ゆるキャラやキャッチコピーを使ったブランディング、交通機関頼みのデスティネーションキャンペーンなど、昭和時代のマインドのまま展開されている情報発信の事例は枚挙にいとまがありません。

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