最新記事

世界経済2019:2つの危機

2019年世界経済「EU発の危機」の不気味な現実味

EUROPE IN CRISIS?

2019年1月10日(木)16時30分
ニコラス・ワプショット(ジャーナリスト)

ILLUSTRATION BY ROY SCOTT/GETTY IMAGES

<イタリアの財政危機よりも深刻な、ブレグジットによるEU崩壊。また、欧州には経済低迷以外にも複数の懸念材料がある。欧州から始まる危機が、果たして世界をのみ込むのか>

※2019年1月15日号(1月8日発売)は「世界経済2019:2つの危機」特集。「米中対立」「欧州問題」という2大リスクの深刻度は? 「独り勝ち」アメリカの株価乱降下が意味するものは? 急激な潮目の変化で不安感が広がる世界経済を多角的に分析する。

◇ ◇ ◇

政治の行方は結局のところ経済によって決まると、よく言われる。だが、2019年のヨーロッパ経済の行方を占うときはその反対、つまり「経済の行方は政治によって決まる」と言うほうが、極めて現実に近いように感じられる。

ユーロ圏を取り巻く世界経済は、つい最近まで楽観論と自信に満ちていた。ところが今は不安と不透明感ばかりが目立つ。そして不透明感ほど市場が嫌うものはない。

表面的には、全てが好調に見える。2008年のアメリカのサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅ローン)危機に端を発した世界同時不況から10年。EU経済もついに本格的に立ち直り始めたかに見える。

かつてベン・バーナンキ元FRB議長は、量的緩和(QE、利下げだけでなく国債などの資産を買い入れることで市場に資金を直接供給する方策)という究極の資金供給策と、政府の思い切った景気刺激策がなければ、2008年の不況は1930年代と同レベルの大恐慌に発展していただろうと語っている。アメリカは歴史的に「市場の見えざる手」を宗教的と言っていいくらい信奉してきたが、あのときばかりは量的緩和と政府の景気対策という「劇薬」を(しぶしぶ)飲んで危機を乗り切った。

magSR190110eu-2.jpg

ドラギの任期終了で迫るECB総裁交代も不透明性を生んでいる AXEL SCHMIDT-REUTERS

ヨーロッパがこの劇薬を飲むのは遅かった。それでも2015年3月、イタリアなどの公的債務危機に直面したECB(欧州中央銀行)は、いつもの臆病な態度を捨てて、量的緩和に踏み切った。そして2018年12月、マリオ・ドラギECB総裁は、この量的緩和の終了を宣言した。

ところが市場はこの決定を時期尚早と判断し、市場ではユーロが売られた。しかもドラギは10月末に任期満了を迎える予定で、後任総裁がどの国出身者になるかという政治的要因が、ユーロ圏経済の見通しを一段と悪くしている。さらにイタリアの財政問題が、ここ数カ月はヨーロッパ経済の成長の足を引っ張っている。

ただ、イタリア経済よりも深刻なのは、EUの存在自体が内外から大きな脅威にさらされていることだ。

magSR190110eu-3.jpg

コンテ首相(中央)らポピュリスト連立政権が率いるイタリア経済も不穏だが...... REMO CASILLI-REUTERS

合意なきブレグジットの衝撃

EUは1951年、加盟国間で石炭と鉄鋼の関税を撤廃して、共同市場を形成する純粋な経済共同体としてスタートした。だが今、この経済共同体の根幹が脅威にさらされている。なかでも明白な脅威は、イギリスのEU離脱(ブレグジット)だ。ブレグジットが最終的にどのような形を取るかは、EUとの関係を緩和したい他の加盟国の態度に大きな影響を与えるだろう。

EUとイギリスは「離婚条件」について協議を重ねてきたが、たとえ合意がまとまらなくても、EUのルールにより、イギリスは3月29日に自動的にEUを離脱することになっている。それによってイギリスが受ける打撃が大きいほど、同じ道を選ぶ加盟国は減るだろう。だが、ブレグジットで傷を受けるのはイギリスだけではない。

【関連記事】2019年世界経済「2つの危機」 それでもアメリカは独り勝ちする

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱商事、4─12月期の純利益6079億円 進ちょ

ビジネス

スズキ、通期純利益を上方修正 期末配当予想1円増配

ビジネス

EXCLUSIVE-日本製鉄、転換社債5000億円

ビジネス

インドネシア、新たな市場規制案発表 上場時の浮動株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も
  • 4
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 5
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 6
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 10
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中