最新記事

経済超入門

世界の85%が希望の時代、米欧日が不安の時代となった理由

2017年12月28日(木)17時30分
アフシン・モラビ

Aguru-iStock.


nweconomicsbook_cover150.jpg<問題は貿易の不均衡ではなく、希望の不均衡。欧米社会が不安に満ちあふれ、新興国が未来を楽観する新たな時代に、私たちはどう生きるべきか(※『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来(ニューズウィーク日本版ペーパーバックス)』より抜粋)>

今の時代には、繁栄も機会もつながり(コネクティビティー)も、かつてないほどあふれている。昔より寿命は延びたし、教育の機会も(とりわけ女性にとっては)飛躍的に増えた。先進的な医療が普及したおかげで、1世代前なら助からなかったはずの命がたくさん救われている。

ではなぜ、欧米社会で、こんなにも多くの人が不満をいだいているのか。アメリカの場合、複数の主要な世論調査結果を総合したハフィントン・ポストの報道によると、国民の10人に6人が「この国は間違った方向に進んでいる」と考えていた。ピュー・リサーチセンターの調査では、3人に2人が「子供の世代は自分たちの世代より貧しくなる」と憂えていた。

イギリスも似たような状況で、フランスやイタリア、ドイツはもっと悲観的だ。何しろユーロ圏の先行きは不透明で、景気も停滞している。ただし西欧諸国は、2世代ほど前にもっとひどい経験をしている。約5000万人の犠牲者と計り知れないほどの破壊をもたらした第二次大戦だ。

もちろん、長い目で見れば楽観的なマクロ的予想をすることもできる。だが人々は限られた時間をミクロな市民として生きている。みんなリアルな世界を生き、リアルな混乱を経験し、リアルな不満をいだく。そして今の欧米社会には混乱と不満、怒りが満ちている。欧米に暮らす私たちは今、「不安の時代」を生きているようだ。

では欧米以外の、世界の「残り」の部分(つまりアジアとアフリカ、中南米)はどうか。中国やインド、アジアやアフリカの新興諸国(ベトナムやインドネシア、ナイジェリアやエチオピアなど)に目を向ければ、これらの国々に暮らす人々には新たな希望と楽観主義が芽生えている。

欧米の親は子供の未来を案じているが、中国やインド、ナイジェリア、エチオピア、ベトナムをはじめとする新興国の親は子供の将来を楽観している。そして、自国は正しい方向に進んでいると固く信じている。ちなみに「残り」の人々は世界の総人口の85%を占める。つまり「85」派は概して希望に満ち、「15」派は不安と怒りにさいなまれているということだ。

なぜこんなことになったのか? 欧米社会(日本もここに含まれる)は物質的に「残り」の地域より豊かだ。欧米の人はきれいな空気を吸い、安全で種類豊富な食べ物を口にし、自由で公正な選挙に参加し、個人の能力を伸ばす機会にも恵まれているはずだ。もちろん比較対照の問題はあり、新たな「怒りの政治」の問題もある。欧米人は質の高い生活に慣れていて、そうした生活を送る権利があると信じている。だから給料が上がらず、職を失い、生活が不安定になれば不満をいだき、腹を立てやすい。

「15」派を凌駕する「85」派

実際、アメリカでもヨーロッパでも中流層の暮らしは苦しくなっている。とくに高卒の労働者はきつい。雇用機会は狭まり、これまでの常識が通用しない。しかもアメリカでは、この15年で肉体労働者の平均寿命が縮まっている。絶望したくなるのも当然だ。

ラジオを聴き、テレビやインターネットの情報サイトを見ればわかる。今では人々の失望感が、あっという間に怒りや憎悪へとふくれ上がっていく。アメリカのラジオのトーク番組は怒りに満ちている。テレビのニュース番組も罵り合いの場になった。誰もが反対意見に異を唱えるだけでなく、相手を邪悪な存在と考えたがる。

ニュース速報

ビジネス

コロナ禍でもグローバリゼーションは続く=日銀総裁

ワールド

香港最高裁の豪州国籍判事が辞任、国安法への懸念で

ワールド

中国軍機18機が台湾識別圏に入る、海峡付近で演習 

ワールド

英国でコロナ感染拡大 保健相は全土ロックダウン明言

MAGAZINE

特集:誤解だらけの米中新冷戦

2020-9・22号(9/15発売)

「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う── 米中関係史で読み解く新冷戦の本質

人気ランキング

  • 1

    ロシアの毒殺未遂にメルケルが強気を貫けない理由

  • 2

    中国とのライバル関係を深刻に扱うべきでない理由

  • 3

    過去6600万年の地球の気候の変遷が初めてまとめられる

  • 4

    ネットフリックス配信映画『キューティーズ!』がま…

  • 5

    金正恩が「飲み会で政策批判」のエリート経済官僚5人…

  • 6

    ツイッター、トランプの投稿にイエローカード バイデ…

  • 7

    ファイザーの新型コロナワクチン後期試験、被験者に…

  • 8

    トランプお墨付きの「Qアノン」が笑い事では済まされ…

  • 9

    親の過干渉が子どもの幸福感を下げる

  • 10

    反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船…

  • 1

    反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船」船長の意外すぎる末路

  • 2

    【動画】タランチュラが鳥を頭から食べる衝撃映像とメカニズム

  • 3

    水にひそむ「脳を食べるアメーバ」で少年が死亡

  • 4

    「ワクチンは安全」という信頼、日本は世界最低レベ…

  • 5

    【動画】海辺を歩く2頭のライオンに視聴950万回

  • 6

    韓国の世代間格差と若者の怒り

  • 7

    仏シトロエン、14歳から免許不要で乗れる2人乗りEV「…

  • 8

    中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは.....…

  • 9

    EUミシェル大統領「中国に利用されず」 首脳会談、習…

  • 10

    伝説のジャーナリストのトランプ本『怒り』に同業者…

  • 1

    中国・三峡ダムに過去最大の水量流入、いまダムはどうなっている?

  • 2

    【動画】タランチュラが鳥を頭から食べる衝撃映像とメカニズム

  • 3

    反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船」船長の意外すぎる末路

  • 4

    1件40円、すべて「自己責任」のメーター検針員をク…

  • 5

    手に乗る大きさのゾウの仲間、約50年ぶりにアフリカ…

  • 6

    中国の三峡ダム、豪雨で危険水位20メートル上回る 設…

  • 7

    撃墜されたウクライナ機、被弾後も操縦士は「19秒間…

  • 8

    中国はなぜ尖閣での漁を禁止したのか

  • 9

    米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない

  • 10

    アラスカ漁船がロシア艦隊と鉢合わせ、米軍機がロシ…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月