最新記事

投資の基礎知識

今さら聞けない、円高になると日経平均が下がる理由

2017年2月20日(月)12時13分
高野 譲 ※株の窓口より転載

円高で日本株が売られる理由

さて、円高になると、日本企業は下記のような2つの心配事をします。

1.海外で自社製品が売れなくなってしまう(シェア低下)
2.海外売上のドルを円に両替したら雀の涙だ(為替差損)

1.海外で自社製品が売れなくなってしまう(シェア低下)

円高によって、あらゆる製品やサービスが海外で売れなくなってしまいます。たとえば、こんな状況が起こることが考えられます。


アメリカ在住のある少年は、近所のおもちゃ屋で公式ポケモンカードを1枚1ドルで買うのが楽しみでした。ところがある日、同じカードが1枚2ドルになっていました。少年は帰宅し、父親に懇願します。父親は翌日、子供だましの不当な値上げだとクレームに行きましたが、おもちゃ屋は「円高(ドル安)で卸売価格が2倍になったのだ」と説明します。父親は仕方なく店を出ると、路地裏の小さな露店で非公式のポケモンカードを購入し、息子に渡しました。

この短い作り話には、円高が日本企業にもたらす様々なマイナス要素が含まれています。

商品が売れなくなるだけでなく、値上げによる業界への不信感と顧客離れ、粗悪な偽造(コピー)品の普及と、さらには同業種間のシェア低下も懸念されるのです。特に販売シェアの低下は国際競争力を失うことと同じであり、企業の成長戦略に大きく影響してくる可能性もあります。

2.海外売上のドルを円に両替したら雀の涙だ(為替差損)

海外で事業を展開する日本企業は、決済にドルを使っています。そのため現地の売掛金だけでなく、日頃からある程度のドルを保有していることも多くあります。円高が大きく進行すると、それらのドル資産を円に換金したときに"雀の涙"ほどに目減りしてしまうのです。

1ドル=100円のときに1億ドルの売上があったとしましょう。この時点で円に換金すれば100億円です。しかし、急激に円高が進んで1ドル=50円になると、この売上は50億円になってしまいます。何もしていないのに、為替相場の変動だけで売上が半減してしまうのです。

このように、円高になると「シェア低下」「売上減少」「為替差損」といった懸念が生まれます。これらが、海外輸出を主な収益源としている企業の業績に対する不安材料になり、株式が売られることなるわけです。

なぜ日経平均が下落するのか?

円高が輸出に不利に働くことはわかりました。しかし裏を返せば、海外製品を円高の力で安く仕入れられるようにもなります。原材料が値下がりすれば製造コストを抑えることにもつながり、企業の業績アップに貢献すると期待できます。

つまり市場全体を見渡した場合、円高懸念によって株式が売られる輸出企業もあれば、円高を好感して買われる輸入企業もあるということです。それなのになぜ、円高になると日経平均株価が下がるのでしょうか? それは、日本の輸出企業と輸入企業のアンバランスに原因があります。

■日経平均株価の構成銘柄

日本の株式市場を代表する株価指数である「日経平均株価」は、実は、文字どおり全上場銘柄の株価を平均したものではありません。東証1部に上場している全銘柄(1990銘柄/2016年11月10日現在)から選出した225銘柄の平均株価です。

円高によって日経平均株価が下がるのは、この225銘柄に、ハイテク産業や自動車産業といった輸出企業の割合が多いからなのです。特に自動車産業は、企業数こそ業種別7位に甘んじていますが、いずれも企業規模が大きく、円高の影響を強く受けるため、これらの企業の株価の変動が日経平均株価を大きく動かすことになります。

業種別・日経平均株価採用銘柄数(2016年11月10日現在)
1.電気機器(29社)
2.化学(17社)
3.機械(16社)
4.非鉄金属製品(12社)
5.食品(11社)/銀行(11社)
7.自動車(10社)

株価の変動が指数に与える影響を「寄与度」と言いますが、日経平均は225銘柄の「平均」ですので、単純に株価が高いと寄与度も大きくなります。そうした株価の高い銘柄(値がさ株)が輸出企業に多いことも、円高が日経平均を押し下げる原因のひとつになっています。

こうして、為替の影響を強く受ける輸出企業の株価が、日経平均を大きく動かす結果になるのです。そのため、円高でこれらの銘柄が売られて日経平均が下がると、日本株全体が下落するかのようなイメージをもつ人もいるかもしれません。

【参考記事】未来のアップルを探せ! 成長株を見極める5つのポイント

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、公開市場での国債売買を再開と総裁表明 

ビジネス

インド、国営銀行の外資出資上限を49%に引き上げへ

ビジネス

日米財務相、緊密な協調姿勢を確認 金融政策「話題に

ワールド

トランプ氏、28年の副大統領立候補を否定 「あざと
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中