最新記事

貿易自由化

TPPに関心を示した中国を待つ高いハードル

参加可能性は低いのに、参加国と情報交換をしたいとする中国政府の真意は?

2013年6月11日(火)15時08分
ザカリー・ケック

アメリカ主導 21世紀の自由貿易圏を目指すTPP(2011年11月) Larry Downing-Reuters

 中国がTPP(環太平洋経済連携協定)への参加を検討するという。商務省の沈丹陽(シェン・タンヤン)報道官は先週の記者会見で、「平等互恵の原則に基づき慎重に検討し、賛否両論をよく踏まえた上でTPPに参加する可能性がある」と発言。「参加国と情報を交換したい」とした。

 TPPは現在、原加盟国(シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド)に、既に参加意思を表明している7カ国(オーストラリア、カナダ、マレーシア、メキシコ、ぺルー、アメリカ、ベトナム)を加える拡大交渉が行われている。今年4月には日本も交渉に加わることが正式に決まった。

 アメリカなどの推進国は、TPPは関税障壁の撤廃のほか、法規制の整合性確保や中小企業の国際貿易参加促進を掲げていることから、伝統的な自由貿易協定(FTA)を超えた21世紀の経済連携協定だと唱えている。「開発途上の参加国が直面する課題」に配慮するのも特徴だ。

 TPPはアメリカのアジア重視政策における経済面の支柱とみられ、今後も希望する国がいつでも参加でき、新たな貿易分野を追加できるようになる見通しだ。

 ただしその参加国は大規模な市場開放を迫られる。しかも新たに参加する国は、既参加国が合意した条件をすべてのまなければならない。それだけに、中国が近い将来TPPに参加するのは難しいとみられていた。

 実際に中国は、TPPよりも参加国が多く、クリアしなければいけない条件は緩い東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を支持してきた。RCEPの参加国はASEAN10カ国に、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた16カ国で、5月から本格的な交渉が始まった。

 中国は韓国との2国間FTA、さらに日本も交えた日中韓FTAの締結も目指している。その上TPPに関心を示したことは、経済における国の役割を大幅に減らしたいという中国新指導部の意向を反映しているようだ。

 TPP拡大交渉は11年11月に大枠合意がまとまっており、今年中の最終妥結を目指している(難しいのではないかというのが大方の見方だが)。日本は7月半ばにマレーシアで開かれる第18回拡大交渉会合で「TPPデビュー」を飾る。遅れてきた中国が高いハードルを越えられるだろうか。

From the-diplomat.com

[2013年6月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中