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没落国家

第3世界並みイタリア社会の闇

高失業率に家庭内暴力に移民搾取、先進国の名に値しない実態に非難集中

2013年1月30日(水)17時43分
バービー・ラッツァ・ナドー(ローマ)

次世代にシワ寄せ 改革の名の下に教育予算の削減に抗議する学生たち Tony Gentile-Reuters

 世界8位の経済大国で、数々の文化遺産にも恵まれているイタリア。だがこの国は女性の権利や若者の失業といった社会問題に対する取り組みでは途上国並みにお粗末だ。種々の統計がそれを物語っており、そのため最近では国際社会から辛辣な批判を浴びるようになった。

 確かにイタリア経済は不況に見舞われてはいるが、社会問題の悪化は財政難のせいだけではない。現に経済通であるモンティ首相の下、国内経済は少しずつ改善してきた。にもかかわらず、非難は高まるばかりだ。

 イタリア国家統計局の年次報告書によると、24歳以下の失業率は36.5%に達し、若年層の100万人以上が失業中だ。意外なことに高卒者より大卒者のほうが失業率は高い。低学歴のほうが単純労働に抵抗感がないからだろう。

 女性の雇用状況も悪い。給与が男性に比べて平均15%低いばかりか失業率も高く、南部では女性10人のうち6人が就労していない。

 イタリアの女性は家庭内暴力(DV)の危険にもさらされている。昨年、夫または恋人からの暴力により死亡した女性は120人以上。この問題を憂慮した国連人権理事会は昨秋イタリアに対し、国としてDV問題に取り組む必要があると警告した。しかし女性に対する男性の意識を改めさせたり、女性の身の安全を守ったりするための具体的な施策はほとんどない。

 基本的な生活水準にも問題がある。持ち家率は72.4%だが、パソコンの所有率は56%、エアコンの所有率は(欧州で特に夏の暑い国なのに)33.4%だ。
将来を担う世代にもあまり期待できない。昨年度、大学と高校の入学者数は減少した。高校の中退率は18.8%で欧州4位。大学に入っても学位を取得するのは100人中56人にすぎない。

 移民たちの暮らしも劣悪だ。国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは昨年12月、イタリアで人種差別に基づく移民の搾取が「広範囲に拡大」していると非難した。

 移民はイタリア人よりも賃金が平均40%低い。それも支払われた場合の話だ。環境的にも極めて悪い条件の住み込みで働く年季奉公の慣行も全国各地に残っている。不法移民が多いために、彼らは警察に助けを求めることや病気やけがをしても病院に行くことを怖がる。

 ナポリターノ大統領はアムネスティからの非難を誤解だと一蹴。「移民はわが国にとって不可欠な存在だ。労働力であり、高齢化社会にとってのエネルギーの源だ」と弁明した。

「国内のあらゆる分野に権力者がいて、何をするにも妨害される」と言うのは、ジーンズブランド「ディーゼル」のレンツォ・ロッソ社長だ。変革の機運を盛り上げようとしているロッソだが、「国中で不正が横行している」と漏らす。

 変化は訪れるかもしれないが、見通しは暗い。来月には約5年ぶりに総選挙が行われ、指導者が変わるかもしれない。だがきっと生活水準の問題には取り組まないだろう。今のところこうした問題に言及しているのは、統計局だけなのだから。

[2013年1月22日号掲載]

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