最新記事

電子書籍

キンドルはいつかタダになる

アマゾンはキンドルのさらなる値下げを発表したがいずれ無償で配布することは確実だ

2012年10月24日(水)14時17分
ファハド・マンジュー(スレート誌テクノロジー担当)

ゼロの衝撃 時期はともかく、アマゾンのベゾスCEOがキンドル無償配布に踏み切るのは当然の流れ Gus Ruelas-Reuters

 過去の実績を見る限り、アマゾンに関する私の予測の的中率はお世辞にも高くない。

 一昨年の夏は、「クリスマス休暇までに」アマゾンの電子書籍端末「キンドル」の最廉価版の価格が99ドルに引き下げられる、という予測を披露した。何しろ部品のコストは下がり続けていたし、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOはものの値段を下げることが大好きらしいから。

 予想は外れた。最廉価版キンドルの価格が100ドルを下回ったのは、昨年になってからだった(このときは79ドルまで引き下げられた)。

 それでも懲りずに、本稿でまた新しい予測を示したい。

 アマゾンは9月6日、ロサンゼルス近郊で新製品発表会を開催。キンドルの次世代機種をお披露目し、同時に最廉価版の価格を79ドルから69ドルに引き下げることを明らかにした。

 しかし、いずれアマゾンは価格をさらに引き下げ、ついにはキンドルを無料で配布し始めるだろうと私は予測している。

 といっても、誰にでもただで配るわけではない。79ドルの年会費を支払い、アマゾンのプライム会員になることが条件となるだろう。

 アマゾンは現在、プライム会員に対して、1500万種類の商品の無料翌日配達、映画の無料動画配信、キンドル向け電子書籍「図書館」サービスを提供している。それに加えて、キンドルの無償配布も始めるだろうと私はみている。

 私が知る限り、この種の予測を最初に示したのはテクノロジー専門ブログ「テッククランチ」の創設者マイケル・アリントンだ。「赤字を出さずに実施できる方法が見つかり次第」、アマゾンはキンドル無償配布を開始する方針だと、アリントンは10年前半、「信頼できる筋の情報」として報じた。

無償配布で儲かる理由

 アマゾンは再三、この報道を否定してきた。「そんなことは不可能だ」と、キンドル部門の責任者ジェイ・マリーンは昨年、テクノロジー専門ブログ「オールシングズD」に語った。「やりようがない。期待しないでほしい」

 本当だろうか。アマゾン側の否定発言はライバルを惑わすための煙幕ではないかと、私は疑っている。
キンドル無償配布説に対する疑問は、次の2点だろう。1つは、アマゾンにとってどんなメリットがあるのか。もう1つは、採算面でそれは可能なのか、というものだ。

 この2つの問いを掘り下げて考えると、答えがはっきり見えてくる。アマゾンは早晩、キンドルの無償配布に踏み切る。問題はその時期だけだ。

 まず、最初の問い──なぜキンドルをただで配るのか。

 理由は簡単だ。長い目で見た場合、アマゾンの目標はコンテンツを売って利益を上げることであって、独自端末を販売することではない。アマゾンにとって、顧客の手元にある1台1台のキンドルは配送センターやトラックと同じく、商品を顧客に届けるためのインフラでしかないのだ。

 実際、これまでキンドルの価格が引き下げられるたびに、キンドルとキンドル版の電子書籍の売り上げは飛躍的に増加してきた。単に紙版の書籍の売り上げが電子版に移ったというわけではない。電子書籍は手軽なので、人々は紙の時代より多くの本を読むようになっている。アマゾンにとって、当然歓迎すべきことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中