最新記事

iPhone訴訟

「サムスン敗訴」で本当の敗者は誰?

サムソンのスマホが「iPhoneに似すぎている」との判決でアンドロイド携帯と通信キャリアの未来に激震が

2012年8月28日(火)18時44分
マシュー・イグレシアス

コピーか否か アップルのiPhone4S(左)とサムソンのギャラクシーSⅢ Lee Jae Won-Reuters

 8月24日、米カリフォルニア州連邦地裁で陪審団によって下された「アップル勝訴」の評決は、激震となって携帯電話やソフトウエア、ネット関連業界を揺さぶろうとしている。

 米アップルと韓国のサムソン電子が互いを訴えていたこの裁判で、サムスンがiPhoneやiPadの特許を侵害しているというアップルの主張がほぼ全面的に認められたのだ。サムソンは約10億5000万ドルの賠償支払いを命じられた。

 特許侵害が認定された6つのなかには、製品の全般的な形状やデザイン(「トレード・ドレス」呼ぶ)も含まれる。つまり、サムスンのスマートフォンの見た目がアップルのiPhoneに似すぎている、というわけだ。

 さらに、ユーザー・インターフェイスに関わる特許の侵害も認定された。その1つが、2本指で画面を拡大・縮小する技術。画面のスクロールに関する特殊な機能についても、特許侵害が認められた。

 この評決によって、誰が勝利し、誰が敗北したのだろうか。

 まず明らかなのは、アップルが勝ち、サムソンが負けたことだ。サムソン製品に搭載されているグーグルのアンドロイドOSは世界の携帯電話市場で急速にシェアを伸ばしているが、ビジネスという意味では成功には程遠い。アンドロイドがグーグルにもたらす収益はごくわずかだし、アンドロイド端末で利益を上げているのはサムソンだけだ。

 スマートフォン市場での唯一の真のライバルを打ちのめす今回の評決は、アップルにとっては大きな勝利だ。アップルは早速、サムソンの「ギャラクシーS4G」など8機種のアメリカでの販売禁止を求める仮処分を申請した。

 2番目の敗者は、サムソン以外のアンドロイド端末メーカーだ。これらの企業がトレード・ドレスの特許侵害を問われるケースは少ないだろうが、ユーザー・インターフフェイス関連の特許で類似の訴訟を起こされる可能性はある。

グーグルへの影響は意外に小さい?

 グーグルも当然、打撃を被る。スマートフォン向けOSを無償で提供する戦略の是非はともかく、そう決めた以上、グーグルはこの戦略を成功させなければならない。だが今回の判決は、ユーザーにとってアンドロイドOSがもはや「無料」でないことを意味する。ユーザーも訴えられるリスクを負うからだ。すなわち、ユーザーも敗者なのだ。

 とはいえ、ビジネス面での同社のリスクは小さい。アンドロイドは収益の柱ではなく、メールと検索連動広告の分野では好調が続いている。

 グーグル以上に深刻な打撃を受ける真の敗者は、通信サービスを提供するキャリアかもしれない。各社とも長年、iPhoneに愛憎半ばする感情を抱いてきた。

 iPhoneが登場したおかげで割高なブロードバンドの利用者が激増した点では、iPhoneに感謝している。だがiPhoneの人気が高すぎて、交渉の主導権をアップル側が握られた。iPhoneでは特定のキャリアに合わせたカスタマイズは認められていないし、キャリアはiPhone販売権と引き換えにアップルに巨額の「上納金」を支払う必要がある。痛い出費だが、かといってiPhoneを販売しなければお客が集まらない。

 それだけに、アンドロイドOSの台頭は多くのキャリアにとって福音だった。複数の携帯端末メーカーが高性能のアンドロイド搭載機種を発売したため、キャリア各社は交渉の主導権を取り戻し、自社に合わせたカスタマイズも可能になった。

 iPhoneを脅かすアンドロイド携帯の登場を望んでいたキャリア各社にとって、アンドロイドの足を引っ張る要素はすべてマイナス材料だ。なかでも、iPhoneのライバルの座に最も近かったサムソンの敗北は、深刻な痛手となる。

 一方、明確な勝者は弁護士だ。サムソンは確実に控訴するだろうし、同様の訴訟が韓国やイギリス、日本など世界各国で進行している。

 今回のアメリカでの判決を受けて、特許制度が本来の意義からかけ離れているとの批判も高まっている。サムソンとしてはそうした世論が高まり、形勢が覆るよう祈るしかない。
 
© 2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-ジャワ島最高峰のスメル山で大規模噴火、警戒度

ビジネス

EU一般裁、アマゾンの請求棄却 「巨大」プラットフ

ビジネス

中国、債券発行で計40億ユーロ調達 応募倍率25倍

ビジネス

英CPI、10月3.6%に鈍化 12月利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中