最新記事

景気

離婚が増えれば経済は上向く?

景気低迷が始まって以来、アメリカで離婚率が低下しているのはなぜか。経済と結婚の意外な関係と、離婚がもたらす大きなメリット

2012年3月19日(月)18時05分
マシュー・イグレシアス

切れない絆 別れたくても不景気だから我慢するという夫婦も少なくない Jeanette Martin/Getty Images

 金銭問題は結婚生活の大きなトラブルのもと。だから長引く景気低迷のせいで離婚が増えていると思いがちだが、実はその反対。この「大不況」期を通じて、アメリカ人の離婚率はむしろ下がっている。

 米政府の調査によると、07年の離婚率は1000人当たり3・6人だったが、08年は3・5人、09年は3・4人に低下した(政府のデータはまとめに時間がかかるので、これが最新の数字)。

 この調査結果、どうやら偶然ではなさそうだ。実際に経済状況の悪化によって、夫婦は別れにくくなっている。

 各州ごとに05年と09年の数字を比較したルーズベルト研究所のマイク・コンツァルによると、失業率の上昇幅が大きい州は離婚率の低下幅も大きかった。

 昨年は景気が少しだけ上向きになり、同時に離婚率にも上昇の兆しが見えた。このまま失業率が下がり続ければ、破局するカップルも増えていくはずだ。それどころか、何年もたまりにたまった夫や妻の怒りが一気に爆発し、一時的な離婚ブームが訪れる可能性が高い。

豊かな時代には独身者が増える

 こうしたデータを見ると、保守派が考える家庭と経済状況の関係は誤りであることが分かる。彼らは独身者、特に子持ちのシングルの存在は貧困や景気低迷と強い関連があると主張してきた。ブッシュ前政権が結婚を奨励する政策に取り組んだ理由もそこにある。

 確かに1人より2人で暮らすほうが経済効率はいい。仕事を失った若者が実家に戻り、親と再び一緒に暮らすのはそのせいだ(この法則は、不況期に夫婦がなかなか離婚しない理由の1つでもある)。

 ただし個々のケースを見ると、経済問題がすべてではないことが分かる。金銭的余裕があるかどうかは、若者が1人暮らしを始める最大の要因とは限らない。それでも実際には親との同居はうっとうしいので、経済的に自立できれば家を出ることが多い。

 夫婦関係にも同じことが言えるかもしれない。幸せな結婚生活なら、1人で暮らすよりいい。しかし不況と離婚の関連性を見ると、多くのカップルはカネがあれば不幸な結婚から逃げたいと考えているらしい。その意味で、1962年よりも豊かになった2012年に独身者が多いのは決して意外ではない。

離婚は究極の景気刺激策

 現在の景気低迷期で特に印象的なのは、世帯数の増加がぴたりと止まっていることだ。通常、世帯数は総人口とほぼ同じペースで増えていくが、07年以降は世帯数の合計がほとんど伸びていない。新しい世帯が生まれても、死亡による世帯の消滅や2世帯同居の増加で相殺されているためだ。

 この現象の原因は若者たちだ。若年層の就業率が歴史的な低水準に落ち込み、親と同居する10代後半や20代が増えている。世帯数は離婚でも増えるが、今は離婚率も低下している。景気低迷にあえぐ現在のアメリカでは、世帯数増加のチャンス自体が減っているのだ。

 この傾向は、景気回復の動きはじれったいほど遅いが、将来の変化は予想より急激なものになる可能性も予感させる。アメリカ人の懐具合がもう少し良くなれば出産や離婚、若者の自立などが増え、「失われていた」何百万もの世帯がいきなり出現するかもしれない。

 新しい世帯には住む家だけではなく、家電製品や家具、その他のさまざまな耐久消費財が必要になる。つまり収入の増加が世帯数の増加につながり、それがさらにアメリカ人の収入を増やす可能性があるのだ。

 少なくともこの点では、今年は離婚の増加を期待したい。

Slate特約

[2012年2月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中