最新記事

ユーロ危機

EUの新「財政協定」はただの気休め?

EU25カ国が財政規律を強化するための新条約に署名したが、債務危機脱却への「大きな1歩」と喜ぶのはまだ早い

2012年3月5日(月)17時04分
ルーク・ブラウン

ひと安心 財政規律強化のための新条約を主導したドイツのメルケル首相(右、3月1日) Francois Lenoir-Reuters

 一見、ユーロ危機脱却への大きな前進に見える。EUの27の全加盟国のうちイギリスとチェコを除く25カ国が先週、財政規律を強化するための新条約「財政協定」に署名した。条約の目的は、ユーロを導入している17カ国がギリシャやアイルランド、ポルトガルのような債務危機に陥るのを防ぐことだ。

 ドイツが主導したこの条約に加盟する25カ国には今後、単年度の歳出入で赤字が出ないようにする「均衡予算」を憲法もしくは同等の国内法に明記することが義務付けられる。

「債務に関して自己規制を強めることは、それ自体に意義がある」と、再任されたばかりのヘルマン・ヴァンロンプイEU大統領(欧州理事会常任議長)は語る。今回の条約制定を進めてきたヴァンロンプイは、「債務危機の再発を防ぐために役立つだろう」と、ベルギーのブリュッセルで行われた首脳会議での署名式典で述べた。

 ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、この協定は「大きな飛躍」であり、EUの安定化と政治統合に向けた第1歩だと発言。しかし一方では、この条約はそもそも、追加支援に気乗りしないドイツ国民をなだめることが目的だ、と批判する声もある。

アイルランドで待ち受ける国民投票

 イギリスのデービッド・キャメロン首相は署名を拒んだ理由について、経済活動の促進や公的部門の削減といったイギリスの提案が盛り込まれなかったからだと説明した。

 約2年に及ぶユーロ危機からの脱却に向け、前進が見られたことで安心感が広がった一方で、新たな不安要素も持ち上がった。スペインとオランダで新たに財政赤字の拡大が発表されたのだ。

 ギリシャの債務危機をもっとも手厳しく追及してきた国の1つであるオランダは、12年の財政赤字の「暫定的な」予想を発表。これまでのGDP比4・1%という数字を4・5%へと修正した。

 一方、債務危機の「震源地」となってしまったスペインは、11年の財政赤字が当初目標としていたGDP比6%を大きく上回り、8・5%となる見通しを発表。修正した理由について、EU諸国から厳しく説明を求められている。

 今回の新条約を履行するためには、ユーロを導入している12カ国が来年1月までに条約を批准しなければならない。署名国は今後、各国議会での承認手続きに入る見通しで、アイルランドでは国民投票が行われることになる。アイルランドはかつて、EUの機能強化を目指した「リスボン条約」を国民投票で否決した過去があるだけに、今回の批准の行方が注目される。

 条約批准にこぎつけられなかった国は今後、財政支援を受ける権利を失う。それは、10年に1兆130億ドル規模の財政支援を受けたアイルランドも同じだ。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月

ワールド

米朝首脳会談、来年3月以降行われる可能性 韓国情報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中