最新記事

ユーロ危機

イギリス孤立でEU分裂の危機

EU諸国の財政規律強化を盛り込んだ新基本条約に反対し、孤立する羽目になったイギリスが進む道は

2011年12月12日(月)16時32分
ポール・アメス

NOの代償 ドイツのメルケル首相(手前)の案に反対を表明したキャメロンだが(12月9日、EU首脳会議にて) Yves Herman-Reuters

 欧州債務危機を克服するために先週行われたEU首脳会議は、今後のEUの在り方が大きく変わる可能性を生んだ。事実上、EUが分裂してしまったからだ。

 今回の首脳会議では、新たな財政規律強化策が協議された。各国により厳しい財政規律を要求する新基本条約について採択が行われたが、合意したのはEU加盟27カ国のうちユーロ圏全17カ国を含む23カ国だった。

 一方で反対を表明したのは、イギリスのデービッド・キャメロン首相。新基本条約の制定によって国家の独立性が失われかねないこと、イギリスの金融部門が弱体化する恐れがあることが反対の理由だ。「私の答えはノーだ」とキャメロンは発言した。「ほかの国々が国家の主権を放棄せざるを得なくても、わが国は決して手放さない」

 残りの3カ国、ハンガリー、スウェーデン、チェコは態度を留保した。それぞれ自国の議会と調整を図るとのことだが、最終的には合意するとみられている。そうなれば、イギリスだけが孤立することになる。

 つい最近までイギリスの盟友だったフランスは、ヨーロッパ全体の利益よりイギリスの金融部門を守ろうとしているとして、キャメロンを非難した。「デービッド・キャメロンの提案は受け入れ難いものだった。数々の金融規制からイギリスを免除するような特別条項を条約に盛り込め、というのだ」と、フランスのサルコジ大統領は記者会見で語った。

キャメロンがチラつかせる拒否権カード

 今回合意された財政規律強化策は、ドイツが描いた青写真にほぼ添う内容だ。ユーロ導入国とその他のEU加盟国のほとんどが、健全財政の遵守を各国の憲法などに明記する、というもの。ルールに違反した場合は、制裁が発動される可能性もある。各国政府は予算を事前に欧州委員会に提出しなければならず、財政赤字が大き過ぎる国は監視や指導を受けることになる。

 新規制がどう機能するかは大いに疑問だ。ドイツの構想は、EUの中心的な機関である欧州委員会と欧州司法裁判所に監視役を担わせるというもの。だが、EU全加盟国のために設置されたはずの2つの機関が、今回の規制に合意した国々だけのために動くことが許されるのか――そんな疑問が残る。

 キャメロンは、EUの機関がイギリスの国益に反する行動を取った場合は拒否権を発動するだろう、と明言している。そんな事態になれば、イギリスを待ち受けるのはEU脱退という道だ。

「イギリスは孤立した。まったく新たな情勢が生まれ、未知の領域に突入した」と、ブリュッセルのシンクタンク、欧州政策研究センターのピオトル・マチェイ・カチンスキは言う。「新局面を迎えたEUが今後どうなるのか、想像もできない」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

自衛隊の中東派遣、「情報収集」目的で政府検討 ホル

ビジネス

伊ウニクレディト、独コメルツ銀の30%超取得へ公開

ビジネス

英CPI、ノンアルビールやフムス採用 健康志向反映

ワールド

ミャンマー議会、クーデター以来初めて召集 軍の支配
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングアップは「2セット」でいいのか?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 6
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 7
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    ぜんぜん身体を隠せてない! 米セレブ、「細いロープ…
  • 10
    50代から急増!? 「老け込む人」に共通する体の異変【…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中