最新記事

世界に拡散する中国無人機

ドローンの世紀

無差別攻撃から災害救助まで急速に進化する無人機は善か悪か

2013.04.25

ニューストピックス

世界に拡散する中国無人機

尖閣諸島の周辺海域で偵察活動に国産無人機を投入。オバマ政権式の「標的を絞った」殺害計画もあり得るかも

2013年4月25日(木)18時05分
トレファー・モス(軍事ジャーナリスト)

追い上げ 中国の国産無人機「翼龍」は、米軍のMQ1プレデター(写真)に似たタイプ? Reuters

 軍需産業とその納入先の各国政府が生み出した無人システムは世界の問題児。法的にも倫理的にも頭痛の種になっている。交戦ルールが変わり、これまでの常識が通用しなくなれば、人々は不安を抱く。

 無人航空機技術の登場と同様、中国の台頭とそれによる地政学的な状況の変化も、未知のものに対する不安を引き起こしている(もっともな不安も、根拠を欠いたものもあるが)。

 その中国が無人機を手に入れたとなれば、メディアがここぞとばかりに危機感をあおり立てるのは当然のこと。周辺諸国やアメリカに警戒感が広がるのは避けられない。しかも中国はよりにもよって日中間で緊張が高まり、対米関係も微妙なこの時期に無人機の開発を進めている。

 だからといって、「日中間でエスカレートする軍拡競争で無人機が主役になった」と騒ぐのは大げさだ。今では、高度な軍備を持つ国はこぞって無人機を採用している。中国の無人機開発は軍拡競争などではないし、中国脅威論の根拠にもならない。中国軍もまた他国の軍隊と同様、最新兵器を導入しようとしているだけだ。

 中国の技術的な進歩は目覚ましいが、無人機開発ではイスラエルとアメリカが大きくリードしている。中国はもちろんヨーロッパ、インド、ロシアもこの2国にはかなわない。それに今の中国は軍備全般の刷新を進めており、無人機開発だけが特別なわけではない。

ここ数年で飛躍的進歩

 中国が無人機の保有数を増やし、偵察や攻撃に活用しようとしていることは確かだ。中国人13人を殺害したミャンマー(ビルマ)の麻薬密売組織の首領を逮捕するため、中国当局が無人機の使用を検討していたことが最近報道された。計画は実行されなかったが、中国がオバマ米政権に倣って他国の領土で無人機攻撃を仕掛けていいと考えているのは明らかだ。

 東シナ海と南シナ海の島々の領有権問題も、中国政府に無人機の配備を急がせている。海上の偵察には無人機はもってこいだ。尖閣諸島(中国名・釣魚島)の偵察では既に日常的に使用されている。中国空軍は旧式のJ6戦闘機を無人機に改造。交戦時に使い捨ての攻撃機にする考えで、今は尖閣諸島の偵察に使っているらしい。

 無人機配備は軍事分野にとどまらない。報道によると、遼寧省当局は北朝鮮との国境監視に無人機を使用し、黄海と渤海湾の管轄区域を監視するため、沿岸部の大連と営口に無人機基地を建設中という。さらに、中国国家海洋局は昨年8月、沿海部の11省に1カ所ずつ無人機基地を設置すると発表した。

 軍に加えて、各省政府や治安機関も無人機を導入するとなると、中国の航空機産業は今後数年間に多様なタイプを量産する必要がある。メーカーは大型契約を狙って、続々と開発計画を提出している。

 中国ではここ数年、無人機のアイデアが次々出されているがせいぜい模型止まりで、試験飛行もできないものが大半だ。それでも航空部門は開発に執念を燃やし、うちいくつかの案件については軍が導入を検討している。

 実は、中国は90年代にイスラエルの航空業界から無人機ハーピーを購入。技術者たちがその技術を研究してきた。

 無人機開発は「ここ数年で、ゼロから少なくとも兵器ショーで25のモデルを発表できるまでに進歩した」と、ブルッキングズ研究所のピーター・シンガーは話す。

 米軍の基準から推定すると、中国軍の作戦行動に使用できるモデルは現在6〜10機種あるとみられる。

 中国航空技術輸出入総公司は無人機ASNシリーズを開発。そのうち少なくとも2モデルが導入される見込みだ。1つはASN15で、「情報収集・監視・偵察・目標捕捉」(ISTAR)機能を持つ小型機。アメリカのRQ11レイブン(戦場で基本的なISTAR任務をこなせるラジコン機くらいの無人機)と似たようなタイプだ。

 もう1つはASN209。中レベルの高度を飛び、航続時間も中程度で、アメリカのスキャンイーグル(航続時間20時間)に近いものだ。11年に南シナ海での海軍演習で使われたと広く報道されている「銀鷹」と同タイプだろう。

 海上でのISTAR任務や、火災発生時に役立つ無人の垂直離陸機も導入される可能性がある。中国海軍が対潜水艦戦闘での使用を視野に入れ、無人垂直離陸機の導入を検討していることは分かっている。建造中の航空母艦に無人機を搭載して、幅広い用途に使う計画もある。

 中国の航空産業はより大型で、高性能の無人機も発表している。うち「翼龍」とCH4は、パキスタンなどで使用されたことで知られるアメリカのMQ1プレデターとMQ9リーパーに似たタイプのようだ。

 中国メディアの報道によると、翼龍はリーパーのような攻撃機で、CH4は民生用にもなる多目的機だが、偵察機として軍用にも使えるという。

 さらに米軍のRQ4グローバルホーク(高高度を飛び、航続時間も長い)と似た「翔龍」も公開された。インターネット上に出回ったその写真は、中国の無人機開発の驚くべき進歩を見せつける。

懸念すべきは「拡散」だ

 ステルス型の無人機「風刃」とステルス型無人攻撃機「暗剣」の開発も進んでいるようだ。イギリス軍が採用している小型無人ヘリ、ブラック・ホーネットに類似した、新世代の超小型無人機の開発も射程に入っているだろう。

 中国の航空産業は輸出にも大きな期待をかけている。特にプレデターに似たCH4は大きな需要が見込め、アブダビの兵器ショーでも展示されていた。翼龍も「既に国際市場に参入し、成功を収めている」と、最近中国で開催された航空ショーで関係者が語った。

 中国は需要と供給のギャップに目を付けたのだ。無人機を開発・製造できる国は限られているし、中国製の無人機は低コストが強み。アメリカ製のプレデターは1機450万ドル前後、リーパーは1500万ドル以上するが、中国製の同様の機種なら100万ドル足らずだ。その程度のカネならすぐ出せて、アメリカとイスラエルの技術に頼れない、あるいは頼りたくない国は少なくない。

 結局のところ、中国の無人機開発を警戒するとしたら、アジア太平洋地域でアメリカと日本の脅威になるからではなさそうだ。それよりももっと深刻な問題がある。価格が安く、武器輸出のハードルが低い中国が生産国になれば、世界中に無人攻撃機が拡散しかねない。

From the-diplomat.com

[2013年4月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中