コラム

自己弁護に追い込まれた「独裁者」の落ち目

2020年02月20日(木)16時37分

例えば中国疾病予防コントロールセンター(CCDC)という国家衛生健康委員会直属の研究機関は2月17日発行の専門誌「中華流行病学雑誌」に、新型肺炎の拡散に関する論文を発表した。それによると、全国における新型肺炎の感染者数は昨年12月末までが104人、今年1月1~10日は653人だったが、1月11日~20日に5417人と一気に増えたという。

つまり感染者数が急増し始めたのは、まさに習が肺炎のことを知りながら不作為を続けた1月7日から20日までの間である。この数字を見た多くの人が、急増を許した責任者は習だと思うであろう。

環球時報までが「当てつけ」

共産党機関紙・人民日報系の環球時報もこの一件に噛み付いた。環球時報(電子版)は上述の論文を取り上げ、「1月11~20日の感染急増は当時の病院取材とも合致する。しかし医療現場の懸念は、直ちに有効な措置にはつながらなかった」と、政府が「有効な措置」を取らなかったことを暗に批判した。

環球時報自身が意図しているかどうかは分からないが、このような批判はある意味ではまさに習への当てつけであり、一番痛いところをわざと突くものだった。

習近平が党中央の指導部と全国民に対して行なったつたない自己弁護は、逆に彼自身の責任問題に対する疑念と批判を招き、より一層の窮地に追い込んでいる。習の権威失墜と求心力の低下は明々白々だ。今後、肺炎の拡大がいつ治まるか依然として不透明だが、それが治まっても習に対する疑念と批判は簡単に消えそうもない。一見確立したかのように見えた「習近平一強」の個人独裁体制は、目に見えない形で崩れようとしている。

【訂正】1ページ目にある旧正月の元日の日付を「1月25日」に修正しました。

20200225issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月25日号(2月18日発売)は「上級国民論」特集。ズルする奴らが罪を免れている――。ネットを越え渦巻く人々の怒り。「上級国民」の正体とは? 「特権階級」は本当にいるのか?

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、12月1日でバランスシート縮小終了 短期流

ビジネス

FRB0.25%利下げ、2会合連続 量的引き締め1

ワールド

ロシアが原子力魚雷「ポセイドン」の実験成功 プーチ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 7
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story